2018
01.23

M&Aの開示資料の全体像

M&Aの開示資料

会社を好条件で売却するためには、バイサイド(買い手)に、高めの価格であっても買収すべきという「決断」をしてもらうことが必要です。そして、その決断を正当化する「個々の判断」を積み重ねてもらう必要もあります。その「個々の判断の根拠」になるものこそが、セルサイド企業から提出された開示情報(ディスクロージャー)なのです。

 

上場企業が開示する資料

日本人気質というものでしょうか、セルサイドオーナーによくある勘違いとして、『自分の会社程度であれば外部からでも簡単に理解できる』と不思議なほど謙虚な思い込みが散見されます。しかし、赤の他人が経営してきた会社を外部から正確に理解するのは容易にできることではありません。

上場企業が、なぜあのように分厚い開示資料(有価証券報告書、有価証券届出書、大量保有報告書等)を公開しなければならないのかを考えてみてください。上場株式の投資家(マイノリティ投資家)の保護という比較的軽めの目的のためでも、あれだけの開示資料が要求されるのです。まして、マジョリティ投資家(M&Aのバイサイド)にしてみれば、企業を買収するとすべてのリスクを背負うことになるのですから、本来、正当な価値で評価してもらうだけでも、IPOに必要とされる開示レベルよりも詳細に開示する必要があると考えておくべきです。しかし、上場するほどの規模にない多くの企業にとって大量の資料準備は大きな負担となりがちですから、形成してもらいたい判断から逆算して、想定バイサイドが知ってもらいたいことにフォーカスし、オーダーメイドで開示すべき情報を取捨選択し、簡易資料で済ます部分と、深く知ってもらうために詳細に伝えきるべき部分に明確に分け、伝え方を含めて戦略的に準備することが肝要です。

 

本来のM&A開示資料の種類

日本式M&A仲介は双方代理リスクを回避するために簡易資料のみというスタイルをとっていますが、ここでは本来望ましい形であるFAによる場合に、どのような資料を準備すべきかについて、全体像を説明します。

  1. ティーザー(ノンネーム) ※セルサイド情報を基礎にFAが作成
  2. インフォメーション・メモランダム(社名含む) ※セルサイド情報を基礎にFAが作成
  3. 事業計画(社名含む) ※セルサイドとFAが共同で策定
  4. デューデリジェンス開示資料 ※基本的にセルサイドが準備
  5. マネジメントインタビュー ※FAの助言を受けつつセルサイドが対応
  6. その他必要に応じた追加開示資料 ※適宜分担

このようなイメージです。バイサイドの立場にたって、決断を促すために形成しておいてもらいたい判断を想定し、その根拠となりうる判断材料として開示資料を準備するという「目的を強烈に意識した資料準備」の姿勢の徹底が重要です。

1-5の全ての資料や情報が徹底的に重要です。価格にダイレクトに影響します。

 

情報開示と情報漏洩リスクの関係

外部に隠しておきたい、競争優位性の源泉を含むような重要情報こそが、「好条件でも買収すべきである」というバイサイドの決断の材料になることは理解していただけると思います。

しかし、バイサイドの深い意図について外部から完全に予測することは不可能です。

バイサイドが『セルサイド企業の内情を知りたい』と思っている意図が、買収を前向きに検討するためなら問題ないのですが、万が一、単に競合企業のあなたの会社の内情を無料で知りたいだけであったり、参考になる営業手法を無料で学ぶためであったり、バイサイドの社長からM&A推進を命令されている役員や部長が検討した数をカウントしたいだけである場合には、そのような重要情報を開示すること自体が会社の価値を棄損することにつながりかねません。

いくら厳重に機密保持義務を負わせているとしても、100%の保証はありませんから、各バイサイド候補ごとの関心の深さとその意図を確認しつつ、関心度合を確認できてくるにつれ、徐々に、詳細で重要な情報の開示に踏み切るという「大胆さと慎重さのバランス」が重要です。この見極めやバランス感覚が、M&Aバンカーの腕の見せ所の1つであることも覚えておいてください。M&Aの情報開示は、個別案件毎にオーダーメイドでデザインして進めるべきものなのです。

 

 

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