2018
02.02

M&Aによる会社売却の成功パターン:条件に乖離があるならアーンアウトや二段階売却が有効

M&Aのスキーム

セルサイド(売り手)は、ターゲット企業(売り手企業)を、適正評価額(フェアバリュー)以上の条件で売却したいはずです。

しかしながら、あらゆる手段を講じてみても、最適・最良そうなバイサイド(買い手)から、セルサイドの希望に満たない条件しか提示されないという状況は起こりえます。バイサイドにとってターゲット企業は1つの投資案件ですし、他にも様々な成長のための選択肢(自力成長、別の企業の買収)があるからです。

ところで、本来、ターゲット企業の価値というものは、将来のキャッシュフローをその実現リスクに応じた割引率で割り引いた現在価値で評価するものですが、将来のキャッシュフローが実際にどこまで増大するのか、失敗するリスクがどの程度にコントロールできるのかについて、現時点では正確に評価することができないケースも多いものです。でも、セルサイドとしては、「自分が潜在可能性を育成してきた当事者ですので、評価が難しいからといって、潜在可能性をゼロ円で売りたくない。」と思うはずです。では、このようなセルサイドとバイサイドとの間で評価に大きな乖離がある場合に、どのような方法で調整することができるでしょうか?

 

アーンアウトとは?

アーンアウト(Earn-Out)とは、将来の一定の時点における利益等の財務指標に基づいて、売却代金の一部金額を後から追加でもらうという方法です。セルサイドとしては、現時点でバイサイドから提示された金額では納得できないけれど、将来、一定の条件をクリアできたならば、所定の計算方法に基づいて不足額が支払われることになりますから、ターゲット企業の潜在能力に自信があり、選んだバイサイド企業にその実現能力があると期待できるのであれば、アーンアウトという手法は両者の乖離を埋める有効な手法になるはずです。バイサイドとしても、キャッシュフローが本当に大幅に増大するのであれば、しかも、その大部分がセルサイドの貢献によるものと合理的に評価できるならば、「追加買収資金を支払うことも支障なし」と考えてくれます。少なくとも、バイサイドを選ぶ際に、「合理的交渉に応じてくれる意思を確認できるバイサイドを優先する」というバイサイド選考基準を持っていれば、アーンアウトの可能性は大きく高まります。

具体例でご説明しますと、

足元のEBITDA(償却前営業利益)が1億円、セルサイドとしてはすぐに3億円に上昇すると思っていますが、バイサイドは軽々しくその楽観的な見通しを信じることができず、足元の1億円に、成長可能性を少しだけ加味した倍率として8倍、つまり企業価値を8億円と評価したとします。しかし、セルサイドは全然面白くありません。本当は3億円×5~6倍=15~18億円という合理的な価格(適正評価額(フェアバリュー)で売却したい。なぜなら、確信をもって、すぐに3億円に上昇すると考えているからです。8億円は、3億円の3倍弱という低評価ですから、そんな条件で大事な会社を売却するというのは非常に惜しい。しかし自ら3億円まで上昇させてから売却するという時間的猶予がない。このバイサイド以外の先に提案、交渉して成約させるための時間的猶予もない。そこで、アーンアウトで調整することにします。

つまり、M&A成立後、本当にEBITDAが上昇したら、上昇した分の一定割合を当初支払い不足分として後払いしてもらうわけです。本当にすぐにEBITDAが3億円に上昇したとして、約束の判定時期が3年後、約束した一定割合を上昇分の例えば半分(50%)とするなら、2億円(3億円-1億円)×3年分×50%=3億円が追加的に支払われ、8億円+3億円=11億円が最終的な売却額となります。3億円×6倍=18億円には届きませんでしたが、1億円×8倍=8億円に比べればかなり改善しました。

実際にはもう少し複雑な状況があるケースも多いですし、単純なアーンアウトではないもっと工夫したストラクチャーもあるのですが、セルサイドとバイサイドで不確実な将来についての見方の乖離を、双方のリスクとリターンとして「分け合う」ことで調整するという方法です。
時間をかけて改善をしてから売却するほうがよいケースもありますが、改善活動を自ら実施することが難しいケースや売却を急ぎたい場合には、有効な解決方法の1つです。

 

二段階売却とは?

二段階売却とは、発行済株式のすべてを一度に売らずに、例えば80%や90%をまず売却し、その後、約束した時期に残り(10%とか20%)を売るという方法です。アーンアウトと同じく、最初の評価に乖離があったとしても最終的に2回分を合計すれば、セルサイド的に満足できる水準に到達できる可能性を残せます。

具体例で説明しますと、
足元のEBITDAが1億円、今の評価としては倍率が6倍、つまり6億円の評価としてバイサイドから提示を受けましたが、セルサイドは5年程度かければEBITDAは5億円まで成長できると考えています。セルサイドとしては自分が工夫して作ったユニークなビジネスモデルがあるからこその成長であり、創業リスクを抱えながら苦労を重ねてたどり着いたビジネスモデルであるため、今後5年の成長の果実の一部については、自分が受領することが公平と考えています。バイサイドとしても、今すぐ6億円を遥かに超える金額は示せないし、今後の成長にはリスクも伴うため、6億円の80%=4.8億円というように、投資額を抑制することは旨味があります。こういう場合に、(例えば)5年後のEBITDAの[6]倍の評価で残りの[20]%を追加売却するという方法です。仮に5億円に成長していれば、5億円×6倍×20%=6億円が追加売却額となり、4.8億円+6億円=10.8億円となり、当初から大幅に売却額が膨らみ、セルサイドとして満足しやすくなるはずです。

実際にターゲット企業を成長させてくれそうな能力の高いバイサイドと交渉できている場合に限定されますが、勝ち馬に乗る」ような追加的効果も見込める点が二段階売却の旨味です。つまり、上記のケースで5年後にスタンドアローン(単独経営)でEBITDA5億円と想定していたのが、バイサイドの経営努力上乗せされてEBITDAが5年後に8億円に上昇したとしましょう。事前に決める倍率は通常固定的ですし、バイサイドのEXIT(出口)で一緒に売却する場合、[8]倍などに倍率が跳ね上がっているかもしれません。「勝ち馬戦略」という視点もバイサイド候補を選考する際に盛り込むべき視点でしょう。上記のケースであれば、単純に100%株式譲渡してしまうと6億円でしたが、勝ち馬戦略が成功すると、4.8億円+12.8億円=17.6億円になる可能性を追求できるということです。実に3倍近く高く売れるというケースです。これももっと工夫の余地があるケースがありますが詳細に説明すると長くなるので割愛します。

ちなみに、弊社が過去にサポートした売却案件に10倍高く売れたというケースがありますが、弊社以外のM&A仲介会社が提示した想定売却額が純資産ベースの評価であったため、上記のケースで例えると100%売却額が6億円ではなく1.5億円(純資産1億円+調整前営業利益1,500万円×3年分)という評価が示されたというイメージ(ストラクチャー以外の要素も重要な役割をしてくれた案件)です。M&Aという方法でユニークな強みのあるターゲット企業を売却する際、高値売却の可能性を徹底的に追求することで、企業の未来が開ける契機となり、想定外に大きな価格差を上乗せできる場合があることをご理解いただけるかと思います。

 

どのようなバイサイドがこのような手法を受け入れてくれるか?

アーンアウトにしても、二段階売却にしても、マジョリティ(過半数の株式)を取得したバイサイドとしては、自分のリスク経営手腕で実現された実績に基づいて、元のオーナーに多額のお金を追加的に支払うことに難色を示すケースは多いものです。しかし、セルサイドとバイサイドがM&A成立を強く希望し、でも価格が折り合わない、ならばということで、仕方なく受け入れてくれる可能性はあるというもので、M&Aバンカーの腕の見せ所の1つでもあります。

バイサイドがオーナー系企業で、常に100%買収を好むオーナー社長が決定権を持つ場合や、M&Aのストラクチャーに不慣れなM&A初心者の上場会社等はこのような方法は嫌われやすい傾向にあり、逆に、このような面倒な方法でも、頻繁にM&Aを実施する大企業や、投資ファンドのようなM&Aの玄人タイプのバイサイドであれば前向きに検討してくれるケースが多くなります。

特に、投資ファンドの場合には、アーンアウトは難しくても、二段階売却はすんなりと受け入れてくれる場合が多いと思います。なぜなら、追加売却分については自分が負担しなくてもよいし、投資ファンドは将来必ず売却しますから、その売却のタイミンングでセルサイドと一緒に残りを売却してもらえばよいからです。投資ファンドの場合、投資してから一定の改善施策や追加買収等の企業価値向上策を施した上で、3~7年程度の間に、別の企業や投資ファンドにターゲット企業を売却したり、ターゲット企業を上場させて投資回収を図ります。その時に一緒に売ればよいということですね。上場EXITを目指して成長させるという買収戦略では、さらに上乗せが期待できますが、セルサイドとしての貢献はより強く求められるでしょう。具体的には、高品質な情報開示に含まれる「魅力的な成長ストーリー」という貢献が求められてしかるべきです。

逆に、一定期間後に売却することを予定しない未来永劫ターゲット企業を保有し続ける予定の事業会社の場合には、二段階売却は自分が成長させてから高く買うことになるので受け入れにくい方法となります。このような場合、むしろアーンアウトであれば、バイサイドの経営者が高度な金融知識を持っている場合には、受け入れてくれる可能性は多少残ります。あくまで相手次第、提案次第です。

セルサイドのニーズやターゲット企業の現況・将来性を考慮して、最適と思われるバイサイド候補を厳選し、様々なスキームを考案し、提案する柔軟性が重要です。もちろん、うまくいかない場合もありますが、うまくいく可能性があり、大きな大きな成果が得られるかもしれないのです。まず期待値の最も高い方法を優先し、ダメなら次善の策に移行するという合理的な戦略が望ましいわけです。

 

どのようなM&A助言会社を選ぶべきか?

アーンアウト二段階売却といった工夫(他にも色々な方法があります)をすることで、正面突撃では実現しにくいM&A案件を実際に成立させたり、セルサイドが満足できる高値を実際に獲得することが可能な場合があります。しかし、問題は、このような方法を受け入れてくれるバイサイドが、通常、M&Aの玄人であるという点です。

もし、依頼したM&A助言会社が素人同然の場合には、玄人バイサイドに完膚なきまでに負けてしまい、セルサイドのメリットを追求することが難しくなってしまいがちです。素人M&A助言業者の常套句は、「M&Aは、まず同業、しかもお金を持っている上場会社に、100%株式譲渡をするべきです」というものです。困難で時間のかかる仕事よりも、簡便かつ大量処理のほうが会社合計で儲かりますからね。「同業上場会社株式譲渡100%」がベストとは限りません。

M&A玄人のバイサイドと渡り合えるM&A助言会社を選ぶことは、このようなストラクチャリングの場面においても非常に重要であり、最終的な売却額を増やすチャンスをつなぐことに直結します。M&A助言会社を選ぶ際に、過去に経験したストラクチャーの種類や交渉相手のM&A玄人レベル等についても確認しておくと、最終的に選択肢が増えることになると思いますよ。M&A助言会社を比較選考する際、どういう成功事例、切り札としてのM&A技術を持っているかを確認しましょう。

 

 

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