2019
06.24

IPOで準備する資料と、M&A会社売却で準備する資料の決定的な違いとは?

M&Aの開示資料

なんとなく、M&A(会社売却)はIPO(上場)よりも楽そうだ」という思い込みで、会社売却に失敗する会社オーナーが増えています。

今回は、IPOでの準備との決定的な違いを理解していただき、効率的に、正しい準備をして、M&Aによって会社売却を大成功させるためのコツをご紹介します。

一言で表すと、M&Aで相手に伝えるべき情報は「生々しさ」が必要ということです。

 

IPOとM&A会社売却の共通点

IPOM&Aは、オーナー経営者の創業者利潤の実現化の手段として使われます。

共通点は、オーナーが保有する株式が、多額のキャッシュに変換される点です。
この多額のキャッシュは、それに見合うメリットを期待する資金の出し手(投資家、バイサイド(買い手))から拠出されます。
当然のことながら、多額のキャッシュを気持ちよく拠出してもらうためには、「投資妙味」や「不安解消」という心証を、「セルサイドが提示する情報」によって形成してもらうことが決定的に重要になります。そのため、IPOでもM&Aでも情報開示が非常に重要です。

情報」は「資料」のことだけではありません。

情報⇒戦略⇒計画⇒実行(⇒改善⇒再実行⇒)キャッシュフロー⇒分配

これがすべてのビジネスに共通する成功までのフローです。M&A会社売却で本当に必要な「情報」とは、「一番右の「分配」がたくさん手に入るという期待を形成してもらうための起爆剤としての総合的な情報(インフォメーション)」です。

 

IPOとM&A会社売却が異なる点

IPOM&Aには、共通点もありますが、構造的・原理的な重要な違いもあり、そのため、M&A会社売却で成功するために準備すべき開示資料の内容が大きく変わるという点は、ぜひ頭に入れておいてください。
本質的違いを理解し、しっかり準備したオーナー社長だけが、M&A会社売却で勝利できると言っても過言ではありません。

冒頭の「なんとなく、M&A(会社売却)はIPO(上場)よりも楽そうだ」は、実は、大きく捉えると正解です。
たしかに、M&Aでは、IPOのように(外資系投資銀行に依頼する巨大企業の売却案件でない限り)事前に数千万円支払って、監査法人に財務諸表監査や内部統制監査を受ける必要はないし、取引所が定める分厚い資料を準備する必要も、幹事証券会社を起用する必要もありません。

IPOでは、厳格なルールへのあてはめと修正対応がポイントですが、M&Aでは複数のビジネス・経営戦略の結合の実現可能性・実現時の成果の期待形成がその本質です。

IPOでは、ファンダメンタルズ以前に、金融環境次第で上場株価が跳ね上がったり、低評価になりますが、M&Aでは、(M&A能力の高いバイサイドに適切な情報開示と交渉をした場合)期待キャッシュフローの現在価値によって価格が決まります。

そのため「コレだけは、M&Aの方がIPOよりも大事」というM&A固有の「絶対に力を入れるべき領域」があります。

割引に頼らずに、希望販売価格で、すべての在庫を売りたいなら、売る側が、買う側を、使い方やメリット等を含め、一生懸命に説得する」という話は、自然に頭に入ってくるの考え方だと思いますが、M&A会社売却もまったく同じです。

準備不足ですと、買う側の関心を引き付けられず売れません。もしくは、買う側の言い値でしか売れません。そして、おそらく最高に理想的な相手ではない相手に売ってしまいがちです。

これが、圧倒的多数がM&A会社売却で陥っている鉄板の失敗パターンです。
しかも、悲しいことに、安値買いできたはずのバイサイドも、このパターンで失敗しているので、儲かるのは間に入って手数料を貰ったM&A助言会社だけ、という結末になりがちです。できれば関係者全員が満足する結果を手に入れることを目指しましょう。

まず、IPOとM&Aの構造的・原理的な違いを整理してみましょう。

 

 IPO(上場)M&A会社売却
リスク負担度合い法定な有限責任のみ総合的に全責任を負担(法的には有限責任とはいえ各ステークホルダーに対する責任を負う)
各投資家が取得する議決権少数(マイノリティ)過半数~全議決権(マジョリティ)
企業単位単独(上場企業1社のみ、シナジーなし)複数(シナジーあり)
経営関与の度合い経営権なし(ハンズオフ)経営権あり(通常ハンズオン)
経営者変更なしケースバイケース(事業承継目的の場合、遅くとも数年内に経営者変更)
経営手腕の必要性不要(単なる資金提供と配当・株価上昇益の交換)必要(改善・成長・シナジーの成果を自分の経営能力で実現)
資金調達可能(多数の投資家から小口で調達可能、IPOの本来的目的)可能(第三者割当増資、ただし売却・増資をバイサイド1社から調達)
投資家種類個人投資家を含む(アマ投資家とプロ投資家が混合)ため投資家保護の必要性高い通常プロ投資家(事業会社もしくは投資ファンド)のみ
法定監査必要(2期分)不要(代わりにDD)

 

特にどこに力を入れるべきか?

さて、M&A会社売却で成功するためには、情報開示で失敗するわけにはいきません
特にどこに力を入れるべきでしょうか?

M&Aでは、「マイノリティ投資家に配当とキャピタルゲインを得られる可能性と株価が下がるリスクを評価してもらう」だけでは済みません。

様々なM&A固有の視点から、ターゲット企業の経営権を取得するメリットをアピールし、リスクの管理可能性を説明しなければ、「成長ポテンシャルは「ないもの」として評価される」「最悪のリスクも想定して評価される」だけです。

M&A会社売却の本質とは、「バイサイドに、経営リスクを直接にすべて背負ってもらい、バイサイド固有の経営能力を駆使して、ターゲット企業をより良い会社に育成してもらい、そのリスク・努力の代わりに、ターゲット企業を含むバイサイド企業グループ全体のキャッシュフローが、今までよりも厚く・長く手に入るというメリットが手に入るという期待を形成してもらうための交渉プロセス」なわけですから、バイサイドに伝えるべきは、IPOとは比べ物にならないくらい、実質的・本質的・現実的なものである必要があります。

M&AではDDを切り抜ける必要があります。せっかく意向表明書で記載してもらった条件も、DDで過小評価されてしまう失敗を犯すと、合理的な理由によって条件引き下げとなるリスクがあります。IPOの法定監査は「財務諸表は適正か?」という限定的な範囲に対する形式的チェックにとどまりますが、M&AにおけるDDでは、最重要DDがビジネスDD(事業の今後を占うために重要なあらゆる要素の専門家による調査分析結果)であり、会計・税務・法務DDもかなり深いレベルまでチェックされますから、DD対策を事前にやっておかないと、当初想定と大きく異なる方向に向かってしまうリスクを含んでいます。そのため、事業経営経験者・DD経験者がセルサイドチームにいることも重要です。

 

逆に力を抜いてよいのは?

そもそも、IPOの情報開示の中には、M&Aでは不要な要素が多分に含まれます。

個人投資家がM&A会社売却の相手(バイサイド)になるケースは例外的ですし、能力が低い分、最適な相手であることも稀です。
一方で、IPOでの情報開示規制では個人投資家保護が非常に重要視されますから、個人投資家保護目的に限定された情報開示は、M&A会社売却では不要と言えます。
また、そもそもM&Aでは、情報開示の「規制」はありませんから、規制上必要とされる形式的な資料の準備も不要です。公認会計士による監査は不要となります。

 

 

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