2019
07.29

名義株主がいる会社をM&Aで売却する際の注意事項

M&Aのプロセス

歴史ある日本企業の場合、名義株主が存在するケースは多いものです。

名義株主が存在するからといって、会社をM&Aで売却できない、価格が大幅に安くなるといったケースは稀ですが、実務的に時間や労力がかかったり、最悪ケースではトラブルになるリスクが潜んでいるのは事実ですので、会社売却前の準備事項の1つとして認識し、スマートに会社を売却するための準備をしましょう。

最悪ケースでは、クロージングが大幅に遅延する、売却後の責任が非常に重くなる、売れない、価格がディスカウントされる等も考えられる典型的な問題の1つです。

 

名義株主とは

会社法施行前、つまり旧商法時代に設立した株式会社が、商法で定められるところの「発起人の最低人数7名」というルールによって、実際には経営に関与することも、出資もしてないにもかかわらず、不足人数を補完する目的等で、発起人になってもらい、そのまま放置されて現在に至るというパターンが最も一般的でしょう。

通常、親族や親しい友人等の、お願いしやすい人が名義株主に選ばれたはずです。

ここで、名義株主とは何なのかと言えば、本来、会社の所有や経営と無関係な人です。しかし、形式的には、株主として会社が認めたことがあるわけですから、法的にはグレーな存在となります。

 

M&Aにおいて名義株主が起こしうる問題

さて、会社の経営権を譲り受けるバイサイド(買い手)の立場に立って考えてみましょう。

会社を売却しようと考えているオーナーからすれば、過去の経緯から、当然にして、業務上の貢献もリスクテイクもしていない単なる名義上の株主に対して、株式売却の対価を配分することを許容できません。そもそも株を持ってないのですから当然です。

しかし、バイサイドからしてみると、名義株主が存在する以上、名義株主自身の認識内容次第で、さまざまなトラブルが発生する「リスク」が潜んでいる解決すべき重要課題と評価せざるを得ません。

つまり、自分が名義株主に過ぎないことを知っている名義株主が「自分は真実の株主である」と故意に主張してきたらどうなるでしょうか?もしくは、何らかの勘違いでそのような主張をしてきたら?

また、名義株主が他界されていて、その相続人が「自分は株主としての地位を相続しているはずだ」と誤解して、または故意に主張してきたらどうなるでしょうか?

「真の株主であると主張することで、何らかの経済的メリットを得られるのではないか?」という連想は当然に予想できますし、その名義株主の経済状態次第では、嘘をついてでも、何らかの形で金銭を受領しようとする人がいても不思議はありません。

バイサイドからすると、自分がお金を払って取得した株式の所有権について、あやふやな状態になる点がまず問題です。追加的にお金を出さねば買ったはずの株の所有権を完全に主張できないリスクがあるなら、問題が完全に消えてからでないとお金は払えません。

さらに、株主総会等の重要な意思決定において、想定外の人間が関与する可能性が残り、そのまま重要な意思決定を下しにくくなる点も問題です。名義株主が自分の利益のため、嫌がらせのような株主権の実行をしてきたら、結果として意思決定が覆ることはないにしても、その始末のために不要な時間と労力を割かねばなりません。つまり、重要なことを決めて実行に移しにくくもなります。

 

M&Aによる会社売却時の原則的対処方法

基本的には、名義株主本人(名義株主が故人の場合は相続人)に対して、『自分は名義株主であって、株主としての権利(議決権、配当請求権、残余財産分配請求権)を主張することはない』と一筆入れてもらうという方法が一番簡潔でスッキリします。

しかし、これはバイサイドが満足する形式であることが重要なので、バイサイドが確定すればその段階で、SPA(株式譲渡契約)でクロージング前の前提条件として定められるはずですから、バイサイド(もしくはバイサイド弁護士)が満足する形式念書(名義株主であることの表明)を取得し、本人確認のための資料(印鑑証明書等)とともにバイサイドに提出しましょう。事前に準備すると言っても、オーナー本人が先走って念書を取得すると、あとで余計な面倒が生じるケースもありますので。

 

念書で解決できないケースは?

多くのケースでは、すべての名義株主がオーナーと友好関係にある人たちでしょうから、通常はすんなりと念書に捺印してくれるはずです。

しかし、名義株主はまた自然人ですから、年月が経過すると、人間関係が変化、相続が発生していたり、音信不通等、さまざまな変化が伴います。

もし、念書を取得することができない状況に至っていたらどうしたらよいでしょうか?

このような場合、個別事象に応じて、適切な対策をすることになります。

できるだけ、M&Aに詳しい弁護士がメンバーにいるセルサイドFAを起用し、事前に、どのようなリスクが潜んでいるかどのような対策を取りうるか、を整理しておくと安心です。

過去の経緯、設立時の出資の裏付け資料、過去の総会議事録、税務申告書、配当に関する資料等、名義株主なのか真の株主なのか、争いが生じた場合の根拠となる資料を整理しておいていただけると検討がスムーズになるでしょう。

バイサイドのタイプには色々いて「名義株主問題を法的に完全に真っ白にしてからでなければ、クロージングできない」というタイプもいます。その場合、名義株主が100%残ることのない状態に強制的に変更する処理を行うことになります。

 

税務上のリスクは?

また、株主としての地位を形式的に認めている以上、税務上の所得が発生すると課税問題も発生します。

まれに、出資はしてもらっていないけれど、真の株主として株式売却対価を配分したい名義株主がいる等のイレギュラーなケース等では、贈与の問題が生じる可能性もあります。

最終的には、セルサイド(オーナー)が納得できる売却対価の配分方法バイサイドが納得できる安定した株主構成、が両立し、さらに、余計な税務問題が生じないような解決策を模索することが重要です。

 

 

 

 

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