2020
01.03

内部統制の欠陥とM&A交渉との関係とは

M&Aで会社売却をする心構え, M&Aのお金(価格・税金)

まず「内部統制は、不特定多数の少数株主が参加する上場会社だけがやればよいもの」という誤解が多いです。

しかし、正解は「内部統制は、全ての会社が自分に必要な範囲でやるべきもの」です。

特に、M&A会社売却資本提携等を検討中のタイミングは、外部大株主が登場する直前なので、内部統制の欠陥を原因として、株式評価額が過小評価されないように気を配るべきタイミングと言えるでしょう。

逆に言うと、「たった数百万円の改善投資が、ほんの数カ月で数億円にバケるかも?」というのが、M&A前準備の投資妙味です。

 

内部統制の欠陥の放置によって知らずに損するパターン

例えば、こういう例を知っても、内部統制を無視できるでしょうか?

・投資ファンドが、会社Aの適正評価を15億円と評価し、株式100%を取得した。

・この投資ファンドは、売上向上やコスト削減等の具体的貢献をしなかったものの、バックオフィスだけは上場会社レベルで整備した。

・投資してから2年後に株式100%を上場会社に20億円で売却し、5億円の売却益を獲得した。

このケースは、「言ってしまえば、内部統制の欠陥を治癒しただけで、5億円の売却益を計上できた」と言えるでしょう。

(ちなみに、投資ファンドはLBOローンを活用する等で、売上が増えていなくても、5億円以上(例えば、5+7.5=12.5億円)の売却益をかせぐこともできます。)

(さらにちなみに、日本の中小M&A市場の買い手天国を活用して、たった数カ月で(何もせず)2倍の価格で転売に成功できてしまうケースも稀に存在します。)

ココで冷静に考えてみてください。

この「バックオフィスの整備」という、「誰でもやれば必ずできることを、やらなかっただけ」で5億円も売却額が減って15億円止まりになってしまった。

つまり、「5億円の減額は避けられた」はず、「5億円損した」と考えられないでしょうか?

たしかに、この最終的な譲受者である上場会社からすると、「大手投資ファンドが経営管理し、上場会社が安心して投資できる体制になっているだろう」という安心感・期待感があることは否めません。

しかし、例えば、ほんの数カ月の努力によって、5億円の減額を2億円の減額に減らすことはできたかもしれないのです。

なぜなら、そこらへんにゴロゴロしている上場会社レベルに、管理体制をレベルアップすればよいだけだからです。

通常、コストもさほどかかりません。せいぜい数百万円の専門家コストにとどまります(バックオフィス人材がすでに存在しているケース)。

(ただし、一般的な顧問税理士に依頼しても、通常、難しいので、ビジネスとディスクローズに精通した専門家に依頼すべきです。)

バックオフィスの整備状況は、LOI受領前に開示する詳細開示資料(Information Memorandum)や、LOI受領後に実施するDDにおいて、明確な差となってバイサイド担当者の目に映ります。

内部統制がしっかり整っている会社とそうでない会社に、開示資料のクオリティにおいて重大な差があること、クオリティの低い開示資料を出してくる会社に投資する場合、かなり保守的に見ておかないと危険であることを、M&Aに慣れているバイサイドはよく知っているからです。

残念ながら「やっぱり非上場のオーナー系企業は、バックオフィスがボロボロだな。これを改善するには時間もかかるから、多めにディスカウントして、100%間違いなく勝てる投資にしよう。」という評価や発想が生まれやすいのです。

さらに、内部統制をしっかりやっておくと、会社の「改善余地」を数字で明確に示すことができる場合が増えます。

そのような場合、その「改善余地をより上手に改善できる手腕を持つバイサイド」に引き継いでもらえば、より多くの改善が見込めることになりますから、結果として、「好条件での売却」にもつながりやすいと言えるでしょう。

つまり、「バックオフィスの改善しか期待できないバイサイド」に売却(資本提携)するのではなく、「経営全般の改善を期待できるバイサイド」に売却(資本提携)できるかもしれないわけです。

M&Aや資本提携の相手選びにおいて、選択肢が広がるというメリットは小さなメリットではありません。

わかりやすいので例に挙げた投資ファンドとのM&A会社売却/資本提携等のケースだけではなく、上場事業会社とM&A会社売却/資本提携等するケースでも同じです。

上場会社は、M&Aで買収した直後に、早速、四半期連結財務諸表の情報開示が待っています。バックオフィスがボロボロの状態の会社を買収することを敬遠するか、もしくは、大幅なディスカウント(半額レベル)を要求してくる場合もあるでしょう。

こういう発想を持たないまま、「楽して売りたい」と思うと、多くの中堅中小・非上場オーナー系企業が陥っている「安値売り」になってしまうわけです。

 

内部統制強化の副産物

内部統制の強化は、その欠陥による減額の回避以外にも、多くの副産物があります。

特に重要なのは、「アピール漏れ」を避けられるという点です。

当然のことながら、セルサイドによるM&Aや資本提携の提案は、リスク性資産への投資の決断を促す提案です。

リスク性資産は、「失敗したら元本保証がないのは当然のこと、マイナスリターンもありうる」。さらに新株主になる以上、「マイナスリターンに止まらず、投資額を全額スった後でさらに追加資本注入しないといけない場合もありうる」という性質の投資です。

そのため、好条件を目指したいセルサイドとしては、「魅力のアピール」と「リスクへの安心」を具体的に説明することが求められます。

M&A会社売却において、セルサイド(売り手)は、自分の会社のアピールポイントを余すところなくアピールすべきです。ここで遠慮は無用です。

バイサイドは、DDにおいて、弁護士、会計士、税理士、経営コンサルタント等の陣容を張り、対象会社の欠点等をしらみつぶしにチェックしにくるわけですから、セルサイドとしては、アピールはできるだけして、少しでも高い地点から減点されるようにしておかないと、思わぬ低水準までDD後に評価が下がってしまうリスクを抱えているという点を忘れてはいけません。

ところで、多くの日本人の創業オーナー社長は、遠慮がちなのか、自分の会社のアピールポイントを、外部の見知らぬバイサイドに適切に伝達することがあまり上手ではない、というのが実態です。

銀行以外に外部第三者から評価を受ける経験をほとんど持っていない上に、銀行ローンを使っていても、個人保証や不動産担保に頼っている銀行の信用調査は、本質的な評価とは言えませんから、外部に評価されることに慣れていないのでしょう。

アピールポイントは、金銭評価される株式評価額に直結するものですから、できるだけ客観的・定量的に評価できるようになっていなければなりませんが、つい直感的・経験則の説明で済ましてしまおうという「楽をしたい欲求」に負けてしまうのだと思います。

一方で、非常に容易に、ビジネスモデルを定量評価し、強み改善余地をアピールできるならばどうでしょうか?

万が一、M&Aや資本提携が失敗に終わっても、事業がより効率的に回るようにレベルアップするなら、わずかなコストを上回るリターンが期待できます。

つまり、「やっておいて損はない」ということです。

 

内部統制とは

内部統制の目的

  1. 業務の有効性及び効率性
  2. 財務報告の信頼性
  3. 事業活動に関わる法令等の遵守
  4. 資産の保全

上場企業は、内部統制監査を受けることを義務付けられていますが、金融商品取引法上の内部統制報告制度に則り、監査法人が主にチェックするのは、上記の内部統制の目的における「2.財務報告の信頼性」を目的とした内部統制に関してです。

上場するにあたり、「2.財務報告の信頼性」が継続的に一定レベルに到達できると評価できないようでは、上場会社によるディスクローズ資料(有価証券報告書等の情報開示)に信頼性がないということになり、投資家が安心して投資することができませんし、投資家の自己責任原則の前提として、株式発行会社による情報開示が適切であることが第一に重要なので、特にこの観点に力が割かれるということです。

また、監査法人は会計のプロフェッショナルですが、実際に自分でモノを作ったり、売ったりしたことがないので、「1.業務の有効性及び効率性」は手に余りますし、「3.法令等の遵守」は弁護士の領域という面もあるでしょうが、「1.業務の有効性及び効率性」は経営者本人が実施すべき、「3.法令等の遵守」は上場審査時にチェックされるという形で、全体として内部統制に問題のない会社のみが上場しているという体裁を整えているわけです。

しかし、内部統制の目的で一番に掲げられている「1.業務の有効性及び効率性」が最も重要であることに異論のある方は少ないのではないでしょうか。これがダメですと、事業が計画通りに成長せず、途中でおかしくなってしまうリスクがあるからです。

内部統制の要素

内部統制監査では、次のようなポイントをチェックしますが、上場をすぐに検討していない場合、すべてに同じ力を割くのは労力の無駄となりかねません。

  • 統制環境
  • リスクの評価と対応
  • 統制活動
  • 情報と伝達
  • モニタリング(監視活動)
  • IT(情報技術)への対応

 

M&Aや資本提携の前にやっておくべき内部統制強化とは?

外部資本の受け入れ(資本提携)やM&A会社売却を検討していて、過少評価を避けたいと考えているオーナー社長としては、ご自身の会社に潜む内部統制のリスクの評価をしっかりとしたうえで、少なくとも、「経営上の重要情報が当然のように経営者に報告される仕組みになっているか」、「重要なリスクについて客観的にチェックされて自浄作用が発揮されるようになっているか」、また、「ITを適切に活用して的確に効率的に業務が運営されるようになっているか」、について、M&A資本提携の際、(上場審査の代わりとして実施される)DDにおいて重大な欠陥アリという烙印を押されないように、事前に適切な内部統制環境を構築しておくことが望ましいと言えます。

 

SCAが提供する企業価値向上コンサルティング

弊社SCAは、上記の内部統制上の欠陥を、短期間で、目的に資する範囲の最小限で治癒するためのサポートをご提供しています。

一般的なM&A助言や財務アドバイザリーサービスでは、相手探し、情報開示、交渉、クロージングと、概ね半年から1年程度の時間をかけますが、これと並行して、早めに相手の予約をしておきながら、内部統制改善サポートを実施するスタイルもご提供できる場合があります。

まずはお気軽にご相談ください。

 

 

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