2020
03.20

「M&A会社売却価格は一物一価?一物多価?」4ケース比較でスッキリ

M&Aのお金(価格・税金)

「自分の会社売却価格は一体いくらくらいなのか?
難しいことは分からないし調べるのも面倒だ。簡単に、今すぐ知りたい!」

売却価格は、M&A会社売却のセルサイド(売り手)にとって、最大の関心事でしょう。これがわからなければ、動くべきか留まるべきかの決断もできません。

しかし、実は、この思考回路こそが悲劇の始まりなのです。

結論は「一物多価のメカニズムに腹落ちしてから、得意不得意のあるM&Aアドバイザーを徹底比較し、ジャストフィットするM&Aアドバイザーを選ぶべき」です。

この手間に合計30時間かかったとしても、3億円の売却価格アップがあるなら、時給1000万円(=3億円÷30時間)ですので。

逆に、この30時間を面倒臭いとスキップして、なんとなくで決めてしまうセルサイドオーナーがモッタイナイM&A会社売却をするわけです。

大手会計事務所が問題提起する日本の企業価値算定現場

そもそも「4大会計事務所(アーンストアングヤング系の新日本監査法人、デロイト系のトーマツ監査法人、KPMG系のあずさ監査法人、PWC系のあらた監査法人)等のしっかりした大手会計事務所や大手会計事務所出身の公認会計士に依頼し、株式価値算定評価書(バリュエーションレポート)を入手すれば、唯一絶対の株式評価額(=一物一価の適正評価額)が入手できる」というのは大いなる誤解です。

筆者も大手会計事務所にて、兆円クラスのM&A案件から数億円の小規模M&A案件まで、正統派バリュエーション実務の経験を重ねたので、はっきり言えます。

M&A目的の企業価値評価額は、前提条件次第で、数倍の差は簡単に生じます。

簡単・無料の株価算定は、『買ってもらいやすい価格にセルサイドを誘導(高望みを抑制)した上で、さらに、説明の手間を省いても事業内容を即座に理解してくれて、いかにも買ってくれそうな同業バイサイドを、セルサイドに強く推奨し、結局やるのはマッチングだけ、最高効率で高額の成功報酬を貰いたい!』といった効率重視の売り方とセットになりやすく、『 本来セルサイドが得るべき創業者利潤を、僅かな貢献のM&A仲介業者や不適当なバイサイドが、たっぷり奪う』という面で、セルサイドの利益が小さく誘導されやすく、社会厚生上の問題すら認められます。

米投資銀行の雄のGoldman Sachsも、米銀行最大手のJP Morganも、日系証券最大手の野村證券も、上場独立系M&AハウスのGCAも、簡単・無料の株価算定サービスを提供していません。おそらく永久に提供しないでしょう。なぜなら、意味がない、のみならず、M&Aリテラシーの高い重要クライアントから失笑を浴びるからです。

事実、大手会計事務所も「依然として、『企業価値は一物一価』であるかのような誤解がしぶとくある(むしろ拡大傾向にある)が、実際には『企業価値は一物多価』なので、環境・状況・目的・能力次第で大きく変わる。適正評価(フェアバリュー)の算定のためには、バイサイドの買収目的、能力や事業計画等をインプットした上で一定の工程がかかる。」といった主旨の内容で注意喚起しています。ぜひネット検索してみてください。

M&A仲介会社の高い収益性が意味すること

『会社売却価格はすぐにわかります。決算書3期分だけ用意してください。簡単に、あなたの会社の適正な価値を評価できます。まずはお問合せください。』という、よく目にする広告の裏には、M&A仲介会社の都合があるのでは、と慎重になるべきです。

エビでタイを釣れる」から高い広告費を負担するのです。どの業界でも全く同じです。

事実、新聞や雑誌等では、「利益率が高い企業ランキング」や「高給企業ランキング」に、自らは事業上の価値創出に全然貢献せず、売り手と買い手のマッチングだけの両手タイプのM&A仲介会社がずらっと並んでいます。

巨額のシステム投資を負担し、垣根を超えた競争に直面する証券業界が、上場株式の売り手と買い手をネットでマッチングするだけの株式売買委託手数料を無料化(0%)する流れに追い込まれているのに、未上場株式の売り手と買い手をネットでマッチングするだけの両手M&A仲介会社は、なぜか合計10%もしくは最低報酬数千万円(最悪ケースでは100%超のリスクも)という料金設定をしているわけです。

何かおかしいと思いませんか?

ランキングが正当化されるためには、他の業界の勝ち組企業を遥かに上回る、極度に高い付加価値(=利益+人件費に相当)を顧客に提供していないとおかしいはずです。

なのに、なぜか求人募集要項を見ると「初心者歓迎」 「〇カ月でM&Aエキスパート」 などの大量採用・短期入替を前提とするかのような言葉が並んでいます。まるで生保販売員の求人広告です。

一方で、人件費負担が高く、会社としての利益は出にくい投資銀行タイプの片手M&A助言会社では、「案件責任者(ディレクター以上)には最低でも7年の投資銀行系等での実務経験と実績」「下働きのアナリストやアソシエイトには、事業経営経験者、MBA取得者、公認会計士・弁護士等の資格保有者を中心に、3年以上の関連業務経験者」などと厳格な条件が並びます。

クライアントファーストを徹底すれば、ときに「売らない方がよい」、「少し待った方がよい」という助言も必要で、案件着手から半年から数年かかるケースも多いのが本物のM&A助言サービスなので、短期的な業績向上圧力との相性は最悪です。

そのため、このタイプは仮に上場できてもしたがりません。

ちなみに、一般的に、前者のM&Aアドバイザーは月給30から50万円+ボーナス、後者は月給百万円~+ボーナスです。両者の顧客提供付加価値が同じはずがありません。草野球のお兄さん VS メジャーリーガーくらい才能と努力に差があるからです。

経済学の常識ですが「顧客の利益を重視した完全競争市場では、超過利潤は競争を通じゼロ」に近づいていきます。

にもかかわらず、利益率が過度に高いということは、それだけ顧客の利益をないがしろにした (=完全競争要件のいずれかが全く機能していない)結果である可能性が高いことを意味します。

つまり、過度に高い利益率は、自ら創造した新市場を独占する企業や特別に高い付加価値を提供する企業等の例外を除けば、顧客の負担・損害がそれだけ大きい可能性を示唆するわけです。

M&A取引に参加するプレイヤーで、もっとも立場が弱く、専門知識が不足しがちなのは、一体誰でしょう?バイサイド、M&A仲介業者、DDベンダー、弁護士、銀行のはずがありません。

4社のバイサイド候補からの提示価格(実際ケース)

今回は、「企業価値は一物多価である」というM&Aの本当のプロにとっては当然のメカニズムを、M&A初心者のセルサイドオーナーにもスッキリ理解してもらえるよう、少し前の実際の成約案件を、少しだけ加工した形でご紹介します。

やや大きめのバイサイド提示価格の開きがあった案件で、同一のターゲット企業、同一時点における、別々の買い手候補4社からの提示価格の比較です。

ちなみに、ターゲット企業は、ユニークな強みを持つものの、節税のため規模のわりに純資産が薄く、弊社受託前に別のM&A仲介会社が実施したバリュエーションでは、なんと1.4億円(BS純資産5000万円+調整前営業利益3000万円×3年分)でした。

最高条件は14億円以上だったので、実に10倍の開きがあるケースですが、ユニークな強みを持つ会社の場合、M&Aアドバイザーが考案し実践する戦略次第で、このくらいの差が生じることは決して珍しくありません。

バイサイド1:5億円

投資ファンド:
・単独投資でシナジーなし
・バリューアップ能力乏しい
・スタンドアローンコストあり
・トレードセール前提

バイサイド23億円  

同業上場会社:
・コスト削減系シナジーのみ
・バリューアップ能力乏しい
・スタンドアローンコストあり
・継続保有・吸収前提
・のれん償却・減損負担を敬遠
・M&A担当者が経営経験のないCFO

バイサイド3:2段階で計14-16億円

投資ファンド:10億円
・ロールアップでシナジーあり
・バリューアップ能力高い
・スタンドアローンコストなし
・上場EXIT前提

バイサイド4: 12億円

異業種非上場会社 
・複数事業間の技術・人材等を融合して新独占市場を創造可能
・バイサイド・セルサイドの創業者が協力してターゲット企業のバリューアップ
・スタンドアローンコストなし
・継続保有の上、両社で新事業を担当する子会社を新設前提
・のれん償却・減損負担を気にしない

少し具体的に説明します。

一物多価のメカニズム(基本編)

単独投資かロールアップか

単独投資をするバイサイドは、ターゲット企業による独立事業体として、企業としてのあらゆる義務履行やリスク対策をしなければならないので、管理コストやインフラコスト等が、非上場オーナー系時代よりも多くかかることがあります。スタンドアローンコストと呼ばれるものです。また、永久にターゲット企業の経営権を維持せず、一定期間後にイグジットする選択肢を考慮するバイサイドの場合、上場するには上場準備コスト、第三者への転売でも一定水準以上の管理体制等が必要です。これに対して、ロールアップ(追加買収)の場合、元々存在する企業の下または横に置くので、グループ全体として、スタンドアローンコストは抑制しやすく、上場コスト等の負担も一部分で済みます。そのため、単独投資だからこその成長加速等がない限り、ロールアップの方がコスト面で優れ、結果として価格も上がりやすい面があると言えます。

シナジーの種類

一括りにシナジーと言っても、実際には色々あります。バイサイドが違えばシナジーの内容もインパクトも全く別物ですし、同じバイサイドでも買収後の戦略立案担当者が違えば、大きく異なる可能性もあります。偶然、今回提案したバイサイド内の戦略担当者が、どのようなシナジーを考え付くか次第で価格は大きく変りうることを意味します。セルサイドからすると、それを見越して、バイサイドが立案するシナジーのインパクトを大きくするような情報開示をする、ゴール(価格最大化)を見越して、シナジー検討基礎情報(高品質な情報開示)をすることで、価格が大きく変りうると言えます。

バリューアップ能力

バイサイド企業は、数億円、数十億円、数百億円といったターゲット企業の株式買収資金を用意できるような、ビジネス成功者です。ただし、成功したのは、ある事業、あるタイミング、ある戦略等が上手く組み合わさったからであり、ターゲット企業を今から経営して確実に成長させられるかの保証はまったくありません。大企業になって、組織が巨大化すると、どうしても官僚的になり、起業家精神を持つエグゼクティブも減っていきます。この場合、保守的な価格しか提示されないはずです。バイサイドの若手エースが 、傘下に入った中堅中小企業の経営幹部に入ることは、極めて有効な幹部育成手段ですし、若手エースをターゲット企業の経営者やその補佐に配置し、生え抜き幹部と協力して有効な打ち手を畳みかければ、あっという間に数倍、10倍の規模に育成できるかもしれません。バイサイド企業がターゲット企業を成長させられる自信が高いほど、価格も高くなりやすいと言えます。創業者自身は早期引退するとしても、後継経営者の一員として生え抜き役員・社員を育成しておくと、さらにポイントアップにつながりやすいわけです。異文化の衝突・融合時にこそ、イノベーションが起きるからです。ダイバーシティが有効にワークしやすい土壌を準備しておくことも、M&A会社売却の準備の1項目と言えるでしょう。

のれん償却負担

バイサイド企業が上場企業の場合、連結のれん償却負担を考慮します。本来、バリューションとは無関係ですが、現実として「のれん償却負担が重いので、価格は保守的な●●億円までなら」と堂々と言ってくるバイサイド企業は多いです。ただし、こういう発言をする担当者は「経営に自信がない」「でも社内評価は欲しい」「失敗時の保険も欲しい」と言ってるのと同じです。起業家精神ゼロなので本当に失敗する可能性が高いと考え、残る従業員の将来も考えて、セルサイドとしては優先順位を落とすべきバイサイド候補となります。一方で、純資産が薄くのれんが厚くなってしまっても、ターゲット企業の事業の潜在力とバイサイド企業のリソース・能力とシナジー可能性、つまり成功確度と成功インパクトに応じて、合理的に、適正評価での買収を決断できるバイサイド企業もいます。こちらの方が実際にM&A後に成長させる能力が見込めます。こういうバイサイド候補企業を候補リストのトップに位置付け、重厚な売却準備をして、このバイサイド候補向けにピンポイントで用意した提案を準備することに多くの時間を割くべきでしょう。多くの方が誤解しているのが、「提案先数が多い方がより多くの可能性に接しより高い価格で売れる」ですが、実は、過剰な提案先数は、最終的な売却価格に大した影響はなく、むしろ、その無駄な活動のために、「内容の薄い提案しか用意せず、逆に可能性を潰しているだけ、情報漏洩リスクになるだけ」です。

一物多価と適正評価(フェアバリュー)

M&A目的の企業価値・株式価値評価が「一物多価」であること、バイサイド候補のリソースや戦略等の分析もせず、ターゲット企業の財務諸表だけで、翌日結果が提示されるような簡易株式価値評価が、意味のない数字であることについて、ご理解いただけたでしょうか?

あえて言い切りますが、無料の簡易株式価値評価サービスは、マーケティングで言うところの「リード獲得」にすぎず、平凡な会社を売ろうとする売り手の参考値にはなるかもしれませんが、ユニークな会社を売ろうとする売り手にとっては「百害あって一利なし」です。

大手会計事務所にバリュエーションを依頼すると、前提条件をかなり細かく設定した上で、数百万円以上のコストがかかります。なぜなら、広く深い関連情報を加味して専門家として判断してからでないと、企業という複雑な経済主体が将来稼ぐ能力や、それがどれだけ上下に動きうるかを反映する適正評価ができないからです。ましてやバイサイドがどのような目的で買収するのか、どのような意欲・能力をもってターゲット企業を経営するのか、について正確に把握しなければ、M&A目的の適正評価額は算定できません。

ところで、今回ご説明した4ケースの個別作用は、今回の案件に限定される点は留意ください。ときにインパクトも方向も大きく変るのがM&Aです。

セルサイドオーナーの会社売却の目的・条件、ターゲット企業の状況・潜在可能性・潜在リスク、ターゲット企業やバイサイド企業が属する業界の状況・展開などによって、個別案件ごとにまるごと変わってくることがあるのがM&A目的の企業価値評価の難しいところであり、同時に、アップサイド・フロンティアを感じさせるところです。

会社売却成功のためさらに重要なこと

弊社(シェルパ・キャピタル・アドバイザリー株式会社)は、上記のようなトランザクション・アドバイザリー・サービス(セルサイド特化FAサービス)のみならず、もっと付加価値の高いサービス(企業価値向上コンサルティングサービス※企業秘密のため詳細はお問合せください)も案件毎の状況やオーナー様のニーズに応じ、ご相談の上でご提供しています。

☆ お問合せ(お問合せフォーム/お電話/メールご都合のよろしい方法で) ☆

ごニーズに真摯に向き合います。

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