2020
04.16

売上急減・補助金・優遇税制等とM&A会社売却価格の関係

M&Aのお金(価格・税金)

今回は、天災・疫病・紛争・金融ショック等の臨時異常な原因による「売上急減・費用急増」や企業固有の事情で異なる「助成金・給付金・補助金・優遇税制・支払猶予」(以下併せて「異常キャッシュフロー(異常CF)」と言います)等が、M&A会社売却価格の評価にどう影響するか、を説明したいと思います。

現代は、格差拡大・温暖化・デジタル化・グローバル化等の進展に伴い、各ビジネスで続々新たな事業機会が生まれる一方、ピンチも頻繁に到来する時代です。今後もAI・ブロックチェーン等の技術革新が進むとこの傾向に拍車がかかると予想されます。つまり、頻繁にピンチが到来するかわりに、やり方次第で望外の財務的成果を得やすい時代と言えるでしょう。

当然のことながら、環境面のイレギュラー要素や固有事業のユニークさは、M&A助言会社の理解力・評価能力や対バイサイド企業の説明力・交渉力等によって、大きな売却価格の差につながります。昨今、団塊世代勇退に伴う会社売却ニーズ急増を受け、M&A助言市場に新規参入者が急増、玉石混交状態となっており、M&A会社売却も「格差の時代」に入っていると言えるでしょう。

異常CFの類型

売上急減・費用急増

臨時異常な原因によって売上が急減したり、費用が急増することがあります。例えば、異常気象や疫病蔓延によって顧客の外出が減れば、晴れの日需要・嗜好品系の商売の売上は「急減」するでしょうし、地政学リスク増大に伴ってエネルギーコストが「急増」するでしょう。この場合、ターゲット企業のCFへの影響は「マイナス」となります。

助成金・給付金・補助金等

不況対策・雇用や投資等を促進させるインセンティブ付与を目的とした、返済不要のお金を「貰える」場合の本業以外の事業外収入です。これはCFに「プラス」に影響します。

優遇税制

一定条件下で、所得控除、税額控除または例外的な軽減税率等を通じ、会社が負担する税金が「減る」場合があります。これもCFに「プラス」に影響します。

支払猶予による支出の先送り

何らかの理由によって、本来支払うべき支出の時期を「先送り」にできる場合があります。先送りに過ぎず最終的に支払うとはいえ、M&Aバリュエーションの世界では、CFに「プラス」に影響します。

売上急増・費用急減

臨時異常な原因によって、ある企業の売上が急減しても、代替財・代替流通チャネルの需要にシフトしたり、臨時異常な原因への対策という新規需要が発生することで、別の企業の売上は「急増」する場合があります。同様にコストが急減する場合もあります。これもCFに「プラス」に影響します。

異常CFのM&Aバリュエーションへの影響

こういう先の読めない異常事態では、大半のバイサイドがM&Aに消極的・保守的になりがちです。窓が開いていても「異常マイナスCFは考慮するものの、異常プラスCFは無視したい」という気持ちに傾くわけです。しかし、セルサイドは、お金が必要、引退したい、事業を引き継いでもらいたい、という立場上の弱みがあるからといって、大きな妥協をして、厳しい評価を受け入れないといけないのでしょうか?

そんなことはありません。リーマンショック前から投資銀行流のM&Aバリュエーションと、M&A助言に従事し続けているM&Aバンカー(出来るだけ片手FA)であれば、この危機を乗り越えるアイデアを考案し、セルサイドオーナ-のため、ターゲット企業のために尽力してくれるはずです。

M&A会社売却価格の大原則

M&Aバリュエーションは、枝葉を除いて簡潔にまとめると、「ターゲット企業の将来キャッシュフロー獲得能力」と「将来キャッシュフローのリスク(変動性)」の2要素によって計算されます。過去とか現在の業績等は、バリュエーション全体からすると、参考基礎情報に過ぎません。大事なのは「将来」です。

ポイントは、異常性を除き、合理的に矛盾なく、経常的評価を形成することです。適正なバリュエーションを通じ、最適なバイサイドを見つける視点がみつかり、最適なバイサイドと合理的に交渉しやすくなるため、特に異常事態においては、正統派M&Aバリュエーションは最初にやるべき必須プロセスです。

つまり、
・異常マイナスCFのうち、非経常的と説明できた範囲で、価値から減らさずにOK。
・異常プラスCFのうち、経常的と説明できた範囲で、価値に上乗せしてOK。
となります。環境やビジネスモデルは常に変化しますので、異常事態が将来の経常状態を変化させることがあり、また、主体的にその方向にビジネスモデルを変化させることも可能であることを忘れないでください。「ピンチはチャンス」です。

異常時におけるバリュエーション手法の選択

M&Aバリュエーションには、DCF法等の異常CFを調整しやすい評価方法があり、DCF法ならば(しっかりと修行したM&Aバンカーが操る場合に限られますが)異常CFの影響を適切に緩和して、経常状態の企業価値を算定評価することが可能となります。2つの重要要素を「時間軸」に沿って適切に設定できるのがDCF法の特徴です。

当然のことながら、純資産法は論外です。バラバラに分解して売却する際のハゲタカ価格(会社清算時の評価額)であり、事業が継続できる会社の評価としては避けるべきです。特にセルサイドにとって酷に過ぎる評価結果となるからです。

また、DCF法の簡便法であるEBITDA倍率法も、平常時においてはDCF法と比較して簡便に適正評価を算定しやすい評価手法ですが、異常事態で適正評価にたどり着くのは難しくなります。重要要素を「1時点」で設定するしかなく、複合的要素を反映するためにはどうしても主観的・アート的になり、当事者間で合意形成することが難しくなるからです。

異常事態発生期間中及び異常事態収束から数年内の会社売却を目指す場合、M&A助言会社に業務受託する前に、 DCF法による評価を依頼し、納得のいく説明をしてくれるかチェックしてから業務委託するとよいと思います。セルサイドを納得させれないようなM&A助言会社では、懐疑的なバイサイドを説得することは不可能だからです。有能なM&A助言会社なら、要求精度によりますが、数回のやり取りを経て、一定品質のDCF法評価額を算定できるはずです。

異常時におけるDCF法の留意点

異常時のDCF法評価額の基本的な考え方を書くだけなら簡単ですが、懐疑的に評価額をチェックする義務(受託者責任:フィデューシャリーデューティー)を負う有能なバイサイドに納得してもらえるレベルの合理的根拠を用意するのは大変です。

異常時から平常時に移行する将来期間に、この期間・業種特有の重要要素を抽出し、それらの将来予測と関連性が高い客観的根拠、変化する事業環境とビジネスモデルなどのマクロ的・ミクロ的分析、全て辻褄が合う「合理的ストーリーとしての数字」を作り出す必要があります。「言うは易し行うは難し」なわけで、M&Aバンカーには最低7年の修行が必要というグローバルスタンダードは、こういう総合力を駆使する必要があるからです。

例えば、バイサイドが上場大企業であれば、セルサイドから直接説明を受けたM&A担当者が、上司であるM&A決裁権限者に買収価格の妥当性を説明しないといけませんし、投資ファンドでも投資委員会等でスポンサーに説明しないといけません。バイサイドは、原則として、セルサイドから提示された希望価格の範囲で、かつ、出せる範囲で出すわけで、セルサイドの希望条件を超えた条件をバイサイドが自主的に支払ってくれることはないので、セルサイドが適正評価を用意する必要性が特に高くなるのるのが異常事態での会社売却です。

上述の各異常CFをどのようにDCF法用フィナンシャル・モデル(財務モデル)に反映するかは、個別性が強いため、こうすればOKという単純ルールはありませんが、ちゃんと工夫すれば、ほとんどのケースで一定水準の合理的説明力を具備できます。

評価の工夫で合意形成できない場合のさらなる工夫

とはいえ、不確実な将来に関する見方は人それぞれで、バイサイドのM&A担当者がある重要要素について偏向的な見方をする人である場合もありえます。DCF法評価を駆使しても、セルサイド・バイサイド間の合意に至らない場合もあるわけです。双方ポジションが、価格については利害対立するポジション同士である以上、楽観的なセルサイド・悲観的なバイサイドになりやすいからです。評価方法で解決できない場合、セルサイドとしてはどうすればよいでしょうか?

売却時点をズラす

どうしても急がねばならない事情がないならば、あるバイサイドとの間で売却予約等だけしておいて、時間経過後の業績を基礎に再度交渉するという方法があります。例えば弊社は、M&A目的の企業価値向上コンサルティングをご提供しており、この「待期期間を有効活用して、バイサイドが買いやすく、高い評価をつけやすい状態にブラッシュアップするお手伝い」をしております。

アーンアウト

どうしてもいますぐ売りたい場合、「アーンアウト」という方法で、一部売却代金を「後払い」してもらう方法があります。ある財務指標がある時点である水準を突破していたら、ある計算式に基づいて追加売却代金を支払ってもらう約束をして、今はそれなりの売却代金で我慢する方法です。

2段階売却

同じく今すぐ売りたい場合、「2段階売却」という方法で、回復後・成長後の財務指標を基礎とした2回目の売却額で「1回目の売却額の不足分を補充」する方法です。2回目を上場時の売出しとするならば、IPO市況次第では、回復・成長に加え、IPO特有のアップサイドを狙えるケースがあります。

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