2018
06.14

M&Aによる会社売却後、いつ代表取締役から辞任できる(解任させられる)のか?

M&Aで会社売却をする心構え

「M&Aで会社を売却したら社長(代表取締役)としての私の立場は、普通、どうなるんですか?」という質問を受けることがよくあります。

会社オーナー様は、個人として、家族の大黒柱として、雇用主として、そして経営者として、様々な背景やご事情をお持ちであろうと思います。弊社にご相談に来れられる会社オーナー様も、「会社を売却した後の自分の会社との関わり方」について、様々なご希望、想いや不安をお持ちになっておられます。

弊社は、会社売却(セルサイド)に特化したM&A助言会社なので、少しでも会社の強みを生かしてくれそうなベストなお相手を探し出し、出来る限りの好条件を目指す事をお手伝いさせていただいています。「好条件」には株式の売却価格が含まれますが、多くの方にとってそれだけではないはずです。価格以外で本当に気になることがあるのが一般的でしょう。

そして、クライアント様である会社オーナー様が会社売却の決断に至る判断材料の中でも特に大事なものとして、この問題:「会社を売却した後、どのような形で会社に関与し続け、いつ、どういう条件で引退できる(または経営継続させてくれる)のか」を満足のいく形に仕上げることも弊社の大事な仕事の1つと思っています。

そして、この経営者引退時期と好条件獲得の二兎を追うことが難しいケースも実際にあるので、満足のいただける形に仕上げられた場合、喜びはひとしおとなります。

オーナー社長のM&A後典型2パターン

大きく2ケースに分かれるはずです。つまり、①できるだけ早く引退したい方②売却しても経営関与を継続したい方の2ケースです。

前者①は、高齢や健康面の課題を抱え、引退イコール売却という状況の方(事業承継難M&A)や、別のビジネスを始めたい等の事情がある方(アントレプルナーEXITのためのM&A)等です。

後者②は、自力で一定の水準まで成長させることができたものの、個人商店のままでは、人材、信用、取引関係、資金面等で限界を感じており、一方でまだまだ事業の中核として関与していきたい(成長のための経営資源確保ニーズ)、少しでも好条件(高い価格)で会社を売却したいが、現状の財務的成果では少し不満が残るため、パートナーと一緒に会社を成長させることで、最高に大満足できる条件を目指す(財務的成果テコ入れM&A)等です。

会社売却後、できるだけ少ない経営関与、早い引退を希望される会社オーナー様(①のケース)

会社を売却するということは、レーシングチームを売却することに例えるとわかりやすいと思います。

が会社(法人)で、ドライバーが経営者(個人)です。車とドライバーがセットになってはじめてレースが成り立ち、レースの「結果」が欲しいがため、大金を投じて株主にならんとするバイサイド(買い手)が存在するのです。

そこで、オーナー社長個人(現在のドライバー)が、会社にとってどのような役割を担っているのか、今のレースの「結果」に具体的にどのような貢献をしているか、が非常に重要になります。

重要な業務(開発や営業等)について、すでにその多くを部下に権限移譲しているケースでは、最低限の引継ぎ期間があれば、速やかな引退もバイサイドに受け入れてもらいやすいでしょう。つまり、すでに後継ドライバーが会社にいるケースです。1人のワンマン後継社長がいなくとも、数名の後継経営者チームで分担しているのであれば、バイサイドの不安はかなり減らせるはずです。

しかし、社内に後継ドライバーがまったくいないケースは問題になりやすくなります。この場合は、会社売却の準備期間中に、後継者を社内で育成しておくか、もしくは具体的に後継ドライバーの条件を固め、外部から採用する等にスムーズに後継ドライバーを選定できるようにしておくとよいと思います。※弊社はこういう難しい問題に対してもM&A的な視点から助言しています。

また、バイサイド選びもポイントになってきます。比較的後継ドライバーをみつけやすいのが「同業」になります。しかし、同業だと好条件を獲得することが難しくなるケースもありますので、「同業以外」も想定して検討に入るべきです。同業以外としては、川上企業、川下企業、周辺企業等の関連企業や、関連性がない非関連企業、または多くの業界とのネットワークを持つ投資ファンド等が挙げられます。

早く引退したいオーナー社長様は、できるだけご自身が「会社にとってなくてはならない存在ではない」ことを証明できるよう、入念に準備しておくべきでしょう。客観的な視点が重要ですから、早めに着手して、問題があるかないかを外部の目でチェックするとよいでしょう。

売上の大半を社長による営業で賄っている場合など、会社の価値=社長の価値と見做されると、株式の価格が大幅に低くなったり、場合によっては売却相手が見つからないということも考えられます。それくらい重要な問題であり、しっかりとした早めの対策がM&Aによる会社売却の成否を分かつこともあるのです。

代表取締役を辞任することができれば、借入金の連帯保証人の負担等、代表取締役であるがゆえの重荷を肩から降ろすことができるはずです。逆に言えば、その負担を代わりに背負ってもらう誰かを探すことが必要になるわけです。

M&Aで好条件を目指すためには、徹底的にバイサイド視点で考えましょう。バイサイドが確保したいのは、「よく走る車(ビジネスモデル)」だけではなく、「会社買収後の事業計画(=レースのコース)を好レコード(成長や収益性改善)で走破するために必要なドライバー(適した経営者)」のセットです。

M&Aでバイサイドに開示するスタンドアローン事業計画(単独ベースの事業計画)を立案する際には、「その事業計画を実行できる経営者」を探しやすいようにしておくことも重要ですよ。

「自分は今後の事業計画を実行するために相応しくないけれど、実行できる経営者は探しやすい。」という一見矛盾しているような難題を解くことが、「高く売る、かつ、早く辞める」を両立できる方法であり、M&Aバンカーの腕の見せ所なのです。

一見すると矛盾するような希望や条件を飲んでもらうようにM&A戦略を構築するわけですが、柔軟にアイデアを出し、しっかりと事前準備の汗を流すことで多くの障害を突破できることが多々あります。

会社売却後、できるだけ多くの経営関与をし、引退を当面希望されない会社オーナー様(②のケース)

逆に、すぐに引退したいわけではないけれど、会社の成長のために個人商店から脱出したいというニーズのためにM&Aによる会社売却を選択するのも非常に賢明な決断だと思います。

場合によってはIPOが視野に入るケースもありますし、売却価格が大幅に伸びるケースも多いです。

実際、米国では、シリコンバレーで創業するのもGoogleやAmazon等に好条件で売却することをゴールとしている創業者も沢山いて、コストや手間や時間のかかる上場よりもM&Aが選択されるケースが多いのが実情であり、多くの経済事象と同じく、日本でもM&Aに関して同様の動きに進むとみてよさそうです。20年くらい遅れて米国の常識が日本の常識になりますので。

今度は逆に、辞めたくない追い出されたくない、わけですから、新しいオーナーから気に入られなければなりませんね。取締役の選解任権を有する過半数の議決権を持つ新オーナー(つまりM&Aでのバイサイド)から解任されないようにしなければなりません。

ここでも、バイサイドの選び方事業計画の作り方がポイントになります。

早く辞めたいときと同じで、バイサイドは、「同業」を中心として検討するべきではありませんね。同業であれば、比較的容易に指揮命令下にいる社員の1人を新社長として送り込むことができてしまいます。「同業以外」であれば、通常、業務運営ノウハウを持っていないので、現社長に依存する構造を作りやすくなります。「投資ファンド」も現社長が当面経営継続してくれる状況を好む傾向にありますから、同業以外のバイサイド候補に含めて、幅広く検討し、狙いを定めてM&Aの提案をするべきです。

バイサイドに開示する事業計画としても、「自分がいなくてはならない計画」にしておき、その事業計画をベースとした買収後事業計画を前提としたM&Aに仕立て上げることができれば、現社長が容易に解任されることがなくなるはずです。魅力的、かつ、自分が必要不可欠な事業計画を立案し、バイサイドに効果的に説明しましょう。

すぐに引退しなくてもよいケースであれば、バイサイド候補の幅も広げやすく、また、魅力的な事業計画も立案しやすくなり、好条件を獲得するためのストラクチャリングの選択肢も広がります。

会社売却後のご自身の処遇を非常に気にされる方が多いのですが、まずは経験豊富なM&Aバンカーに相談して、不要な心配によって選択肢を狭めないようにしてください。

2つのケース以外のオーナー様

冒頭の質問(「M&Aで会社を売却したら社長(代表取締役)としての私の立場は、普通、どうなるんですか?」)に対する回答は、「M&Aは非常に複雑な要素が絡み合う取引ですが、相手との交渉次第であり、良くも悪くも想定外のことが発生しやすい取引です。難しい交渉を上手くまとめるためにM&Aバンカーが存在しているのであり、普通はこうなるという単純なパターンはありません。」とお答えせざるを得ないのが現実です。

たった2つのケースにすべて収束できるはずがなく、会社売却を検討されている会社オーナー様のご希望ご不安をしっかりと聞いて、どのような解決策があるかを具体的に考案し、バイサイドに受け入れられうるレベルまで練りこむことが肝要です。

やはり事前の準備こそがM&Aの成功に重要です。ご自身でコントロールできることは全てやりきってから、ご自身ではコントロールできないことを不要に心配しなくて済むようにしてから、M&Aに臨みましょう。

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