2018
10.14

会社売却成功のヒント:LBOローンについて売り手が知っておくべきこと

M&Aのお金(価格・税金), M&Aのスキーム

LBOローンとは、レバレッジド・バイアウト・ローン(Leveraged Buy-Out Loan)の略で、買い手(バイサイド)が、買収資金の一部を、自社余裕資金でなく、銀行ローンによって、かつ、通常の法人向け事業ローンとは異なる仕組みのローンで調達するものです。

LBOローンは、バイサイド向けに色々と解説されていますが、セルサイドオーナー(売り手)やターゲット企業(売り手企業)もしくはターゲット企業の経営者向けに説明されることは少ないのが実態です。

そこで、弊社SCAは、セルサイド特化型FAとして、セルサイドにとっても小さくない影響が生じるLBOローンについて、セルサイドが最低限知っておくべき基本知識を整理してみました。

LBOローンの3つの特徴

ノンリコース(非遡及型)

バイサイド(買い手)は、買収資金を用意するにあたって、コーポレート・ローン(リコースローン)で調達しても良いのですが、通常のコーポレート・ローンですと、M&Aで買収したターゲット企業が思った通りに返済原資を稼ぎ続けてくれない限り、バイサイド自身の資金を切り崩して返済しなければなりません。

バイサイド=買収資金の借入人に対し、第一の返済原資であるターゲット企業のフリーキャッシュフローが滞った場合に、遡及して借入人本人に返済を求めることができるのがリコース・ローン(訴求型ローン)です。

遡及されると困るケース(上場会社が、株価下落リスクを意識させやすい大型買収をしたい場合とか、遡及されるわけにはいかない投資ファンドが、バイサイドの場合等)では、ノンリコース・ローン(非遡及型ローン)であるLBOローンを利用することで、遡及返済の負担を回避することができるわけですね。

セルサイドとしては、セルサイドが享受できるメリット(LBOローンを使う場合の方がターゲット企業を高く売れる等)を踏まえ、バイサイドの個別事情に配慮してあげるかどうか検討することになります。

SPCと合併と株式売買比率と税制適格組織再編と許認可と簿価純資産

ややこしいのがこの部分です。毎回知恵を絞って最適な仕組みに落とし込む必要があります。セルサイドに大きな影響を及ぼす可能性があります。

買収資金」とは、セルサイドに支払う株式取得対価ですので、株式の譲渡と同時に、バイサイドが事前に用意しておくべきキャッシュとなります。この買収資金の一部をLBOローンで調達する場合、LBOローンで調達するキャッシュと自社の買収資金を保有するSPC(Special Purpose Company: 特別目的会社)を準備します。つまり、SPA(Stock Purchase Agreement:株式譲渡契約)を締結するにあたっては、買主は、バイサイド本人ではなく、SPCが買主となります。そして、クロージング日に、原則として株式100%をSPCが取得し、株式取得対価(キャッシュ)がセルサイドに支払われることになります。

ところで、SPCとターゲット企業(売り手企業)が別法人のままですと、SPCはターゲット企業の単なる株主であり、銀行等としては、キャッシュをターゲット企業から直接引き抜いて返済に充てることはできません。LBOローンの返済原資としてターゲット企業の配当に頼ることになりますが、ターゲット企業が会社法上の配当可能限度額次第では返済不能(デフォルト)に陥るリスクもあります。そのため、多くのケースでSPC(親会社)とターゲット企業(子会社)を合併させて1つの法人にまとめます。

ここで組織再編税制の問題が生じます。組織再編税制では、税制適格条件を充足しているかどうかで、税制適格合併税制非適格合併に分類され、課税関係が大きく変わってしまいます。適格なら簿価で結合、非適格なら時価で取得とみなすので、非適格になると「儲かってないのに税金を取られる」という事態に陥るリスクがあります。また、合併は、親会社を存続会社とする通常の合併と、子会社を存続会社とする逆さ合併という方法があり、通常の合併ですと単なるペーパーカンパニーが存続会社となり、ターゲット企業は消滅してしまいますからターゲット企業として取得していた許認可等を改めて取得する必要が生じます。一方で、逆さ合併の場合には許認可は継続するのですが会計処理上の問題として、会社売却額が純資産比でかなり高くなるケースに、キャッシュはあるのに債務超過という状態に陥ってしまい金融機関の形式的評価上ダメージが生じるというリスクが発生します。

どういう組み合わせで設計するか、セルサイドが蚊帳の外にいると、想定外の損失が生じるのは、こういうややこしい問題があるからなのです。セルサイドとしては、バイサイドの事情に配慮してあげつつも、自身にとってもデメリット等がないかを十分にチェックすることが必要となります。

アップフロント・フィーと金利と融資サイズ

銀行等のLBOローンを提供するレンダー(貸付人)から見ると、LBOローンは、リコースではなくノンリコースですから、コーポレート・ローンと比べ明らかにリスクが高いことになります。つまり、ターゲット企業の将来のフリーキャッシュフローがどの程度見込めるかについて、担保や保証で信用が補完できるコーポレート・ローンに比べ、返済能力等をはるかに深く分析評価する必要性が生じます。つまり不動産等の換金性のある資産を担保に取り、代表者を連帯保証人にして、ビジネスの目利きはそこそこに貸せばよいコーポレート・ローンの様にはいかないということです。銀行内でローンのフロント部門が高度な与信判断をし、審査部門が慎重に審査した上で融資可否等を決定することになります。貸付期間中における財務制限条項等も個別案件毎に細かく具体的に設定することになります。つまり、オーダーメイドの設計になり、契約書も分厚くなります。したがって、コーポレート・ローンよりも遥かに多くの手間がかかります。高めのリスクに応じた高めのリターンを要求されてしまうことは言わずもがなです。結果として、銀行に支払うアップフロント・フィー(着手金)が結構な金額になり、借入金利もコーポレート・ローンよりも結構高めの水準になるということです。

また、融資サイズ(アマウント: Amount)としても、それなりの規模を要求されるのがLBOローンです。融資前のみならず、融資後(モニタリング等)においても銀行内で多くの手間がかかり、高めの金利とはいえ、人件費や儲けを考慮すると、必要収益を確保するには一定の融資サイズが必要です。この点、弊社SCAには、日本のLBOレンダーの中でも小さめの融資案件にしっかりと取り組んでくれる銀行の出身者も在籍しており、取り組んでもらえる可能性は広がりやすいと言えます。

ちなみに融資サイズは、EV(Enterprise Value:企業価値)とLTV(Loan To Value = LBOローン/企業価値)で決まります。企業価値は、調整EBITDA倍率、もしくはDCF法で推計した将来FCF(Free Cash Flow)の見通しと事業リスクを反映した割引率(Discount Rate)について、安全重視の銀行なりのストレス(下方修正)を加えて決定されますから、調整EBITDAの水準や今後の見通し、CAPEX(資本的支出)、Working Capital (運転資本)、Tax(税務コスト)等の構造等を総合的に勘案して決定されることになります。

セルサイドも大まかに理解しておくことが望ましいでしょう。特に会社売却後も社長や株主として残るケースでは、重要な問題となりかねません。

セルサイドにとってのLBOローンのメリットとデメリット

セルサイドにとってのLBOローンのメリット

・ バイサイドが買収額を上乗せしやすくなるため高い会社売却額を獲得しやすくなる
・ バイサイド候補を拡大できる(買収資金不足でもターゲット企業の飛躍に有益な経営リソースを持つバイサイド企業を候補に加えることが可能となる)
・ セルサイドFAとLBOレンダーが協力するステープル・ファイナンス(Staple Finance)等の高度なLBOスキームを活用することで、セルサイドにより有利なM&A交渉をしやすくなる

セルサイドにとってのLBOローンのデメリット

・ 会社売却までに時間(+1~2カ月)と手間(銀行向けQ&A等)が余計にかかる
・ 銀行が融資しやすい状態(事業の安定性)と見做してもらうための売却前準備の視点(対銀行)が増える
・ 会社に残る役員・従業員の努力で弁済を要するLBOローンを組むため、セルサイドとしては心理的負担を抱える場合がある(下記)

ターゲット企業にとってのLBOローンのメリットとデメリット

ターゲット企業にとってのLBOローンのメリット

・ LBOローン+バイサイド資金の合計金額が、セルサイド(売り手)への対価額を上回るケースでは、余剰改善・成長資金として使用できる
・ 安全性重視の外部専門家であるLBOレンダーが定期的に経営状況をチェックしてくれる
・ 社内の規律が高まり、コーポレートガバナンスが改善する

ターゲット企業にとってのLBOローンのデメリット

・ 金利負担返済負担が設計次第では過剰に重くなり、成長資金が削られる
・ 返済重視となり、会社売却後に残る役員・従業員への分配が減る可能性がある
・ 万が一、財務制限条項等にヒットすると想定外の足踏みを強いられる

バイサイドにとってのLBOローンのメリットとデメリット

バイサイドにとってのLBOローンのメリット

・ ノンリコースで買収資金を調達でき、買収資金をかなり抑制できる
・ 無理に成長せずとも十分な投資リターン(IRR: Internal rate of return、内部収益率)を確保しやすくなり、投資効率も向上する
・ 買収対象を拡大できる(自己資金のみでは買収できないターゲット企業を買収できる)

バイサイドにとってのLBOローンのデメリット

・ 投資のため、投資した後の手間時間が余計にかかる
・ 買収成否・融資成否に関わらずアップフロント・フィーの負担が生じる
・ コーポレート・ローン比で高い金利負担が生じる

セルサイドはどういうM&Aアドバイザーを選ぶべきか

セルサイドは、結局どうすればよいかですが、バイサイド候補として、信用力の高い事業会社、買収資金のすべてを自社の余裕資金から賄う事が確実であるバイサイド候補のみに、安めの価格条件で、会社売却の提案をする場合には、事業面の問題が大半を占めますから、ファイナンス面に関する専門性は重要ではありません。

しかし、もしも会社売却の目的として、「好条件での売却、そのために同業以外の事業会社や投資ファンドも加えたい」のであれば、事業面だけではなくファイナンス面も非常に重要になってきます。セルサイドがファイナンス面の専門性を持つM&Aアドバイザーをチームに加えておかないと、M&A交渉が進行するほどに、バイサイドと金融機関に交渉の主導権が移ってしまい、気づいたら「バイサイドのメリットが大、セルサイドのデメリットが大」というファイナンスの設計をされてしまうかもしれません。

特に、すでに社内に後継者社長(候補)が存在していて、会社売却後はセルサイドオーナーが経営者を速やかに引退できる場合を除けば、会社売却後も一定期間(後継社長の探索・育成に期間を要する場合にはその必要期間、一般論として1~3年程度)は社長として経営責任を負うことになるでしょう。つまり、ご自身が資金繰りに頭を悩ませ、LBOローンの返済のための成長機会を逃すようなことのないように返済・金利の設計にもセルサイド自身が主体的に関与すべきことになります。つまり、アモチゼーション(Amortization)として、フル・アモチ(期間均等返済)からブレット(最終期一括返済)まで、返済ペースをどうするかです。返済ペース金利水準については、バイサイドによる投資実行時とほぼ同じタイミングで、LBOレンダー(主に銀行)による融資判断・審査で決まってしまいます。この際、銀行は、セルサイドFAが作成したインフォメーション・メモランダムや専門家DDが作成したDDサポートを参考資料とし、レンダー(貸付人)として必要となる追加情報をQ&A等の形で要求してきますから、本来開示すべき情報が欠けていた等を理由として、厳しい返済や高い金利を課せられるというお粗末な事態に陥ることのないよう、セルサイドFAと一緒に慎重に対応方法を検討することが重要となります。

少なくとも、「M&Aファイナンスの専門性を有している担当者がメインで動いてくれるM&A助言会社かどうか」を契約締結前にチェックしておくべきでしょう。

ところで、今回記載したのは、あくまで一般論であり基礎編です。

実際には個別案件毎にオーダーメイドで最適なストラクチャーや資金調達手段を設計するわけです。いきなり保有株式100%を売却してしまう方が良いのか、社長として継続するのかどうか、成長方針とLBOローンに伴う制約とどう折り合いをつけるか等、セルサイドのニーズやターゲット企業の状況を踏まえて慎重に検討しなければなりません。

セルサイドのニーズやターゲット企業の状態次第では、メザニン・ファイナンス(Mezzanine Finance)の利用によって、経営権を現社長が売り渡さずに済む純粋MBO(エクイティ投資家が絡まないManagement Buy-Out)を採用すれば、より高い次元の満足を目指すことが可能となる場合があります。また、銀行等の与信機関の買収資金への投融資姿勢は、クレジット・サイクル(信用供与姿勢の時間的な循環)とともに移り変わりますから、その時々のクレジット・サイクル、銀行等の買収ファイナンスに対する姿勢、各銀行毎の特徴等を考慮して、最適な設計をできるかどうかが、セルサイドにとっても大きな影響を生じさせる可能性があると言えます。

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