2018
11.08

M&A会社売却の破談リスク:COC条項とは?

M&Aの契約

チェンジオブコントロール条項COC条項Change of Control条項)とは、M&A会社売却を実行することで、経営権(支配権:Control)が、今までのオーナー(売り手:セルサイド)から、第三者(買い手:バイサイド)に移動する(Change)ことに伴い生じる不測の損害を避けるべく、売り手会社(ターゲット企業)が締結している様々な契約の相手方が、第三者への支配権の移動を「原則禁止」していたり、「事前承諾」を求めていたり、「事後報告」を求める等の条項と、その条項に違反した場合の契約解除等の措置とセットになっているもののことを指します。

COC条項の存在意義

契約の相手方は、ターゲット企業の契約当時の状態を信用して契約したわけです。いかに株式を第三者に売却することが自由であるからといって、極端な例で言えば、反社会的勢力へ株式を譲渡されたら契約相手方は本当に困りますし、契約相手方の競合企業犬猿の仲の企業に株式を譲渡されても機密情報管理等の面で重大問題です。経営戦略上、契約相手を慎重に吟味する会社等、「知らないうちに契約相手の本質が変わっていた」では困る会社もいるでしょう。そのため、事前にCOC条項の入った契約を締結しておき、株式譲渡先に問題がある場合には納得のいく措置を講ずることができるような仕掛けを作っておくことは、相手方の経営の安定にとって必要なことと言えるでしょう。

COC条項はディールブレイカーにも

さて、M&A案件が成立不能になってしまった原因、つまりM&A破談の原因を、ディールブレイカーDeal Breaker)と呼びますが、COC条項は、ときにディールブレイカーにもなりうるものです。安易にバイサイドに提案しにいく前に、しっかりと重要な契約書の中身を精査し、不測のトラブルが生じないように準備してから、バイサイドへの提案ステージに移るようにしましょう。

M&A会社売却は、M&A助言会社の情報管理姿勢次第でリスクに幅があるものの、情報漏洩出回り案件化等、本格的に始めてしまうと、状況が良くなるよりも悪化する傾向が強く、売却に一度失敗してしまうと、取返しのつかない被害が生じうるリスクの大きな取引であると言えます。

発生可能性が高く、発生時の被害が大きいリスク」を見逃すのは論外として、たとえ「発生可能性が小さくても、発生すると甚大な被害が生ずるリスク」についても、軽く見ずに、適切な対策を検討しておくべきです。COC条項もこれに該当します。

セルサイドFAが、まず事前に精査(簡易なセルサイドDD等)、それからバイサイド候補をリストアップ(問題のあるバイサイド候補を除外・優先度下げる等)するという安全を考慮した段取りが望ましいわけです。

COC条項が入っている可能性の高い重要な契約のリストアップ

事業経営上不可欠な契約をリストアップ

・ブランド・知的財産権等の使用許諾権に関する契約
・重要な材料や商品の仕入に関する契約
・フランチャイズ契約
・外注・OEM製造に関する契約
・店舗等の賃貸借契約
・販売代理契約
・その他事業経営上重要な契約(海外との契約がある場合は入念にチェック)

次にCOC条項があるかどうかのチェック

・禁止事項
・事前承諾事項
・解除事由
・違約事項
などをチェックしましょう。

発見されたCOC条項に伴うリスクを把握

・相手方
・相手方の利害関係
・相手方が取りうるリアクション
を吟味しましょう。

発見されたCOC条項に伴うリスクに対する対策を検討

・正面から承諾を取る
・契約相手の変更
・契約まき直し
・先送り
を慎重に検討しましょう。M&A成約前の前提条件CPConditions Precedent)に定められるケースが多いので、最終契約後、クロージング日までにスムーズにCP充足できるような段取りを確認しておくと安心です。

成約を優先しすぎない

COC条項は、M&Aの最大のリスクの1つであることは間違いないのですが、DDを熟知している者でなければ発見することすらできません。つまり「DD経験せずしてM&A助言するなかれ」ということです。

COC関連の事前準備のためには、重要な契約書を、複合機でスキャンしてPDFファイル化し、セルサイドFAと共有するという手間がかかりますし、セルサイドFA(DD経験者、M&A弁護士がチーム内にいる事は必須)が数日間契約を詳細に読み込んで分析し、M&A戦略上の対策を練るための時間がかかります。

しかし、逆に言えば、その程度の準備でOKなのです。COC条項に起因するディールブレイカーをかなりの精度で除外できます。

いずれにしても、DDに進んだ段階で、契約書をバイサイド弁護士に開示する必要がありますから、結局、セルサイドの手間は増えてませんし、冷静な判断力を保つためDD直前にバタバタ単純作業に時間を使うべきではないので、むしろ「面倒な作業を先に済ましておいてよかった」となります。

M&A助言業者の中には、このようなディールブレイカーのリスク要因を調査分析する努力を怠り、社内の案件進捗ノルマ圧力等に負け、手っ取り早く買収してくれそうな会社に、手あたり次第に声がけをして、1つでも先のプロセスに進めることを優先してしまう担当者がいる(というか多い)ようですが、クライアント利益最大化を目指す名目で、セルサイドから報酬を受領するのであれば、厳密には義務違反です。

バイサイドによるDDで発見された問題を、次から次へと解決していくのがM&Aマンの腕の見せ所と嘯(うそぶ)かれても、セルサイドオーナーとしては「あんた、M&Aプロと自称するなら、わかってたはずでしょ。先にやっといてよ!」が本音でしょう。事前に発見できたはずのディールブレイカーを見逃されると、セルサイドとしては本当に困ってしまいます。多大なる手間時間が無駄になり、機密情報の漏洩だけが残る、売れなかった案件という風評が広まるという悲惨な結末です。

売れたはずの会社が売れなくなる、売れても適正価格より安い価格で妥協せざるを得なくなるという重大な被害です。少しの手間と、少しの対策をしておけば回避できたかもしれません。

契約相手方にとってのCOC条項の使い道

COC条項は、当事者間の契約で双方合意したものですから、契約の定め通りに、相手方が受入れ拒否をして契約解除されても、原則として文句を言えません。つまり、相手次第です。相手方は「こちらの弱みを掴んでいる状態」になるわけです。条件改善の契機や切り札としてCOC条項を使ってくる可能性もあるでしょう。

例えば、ターゲット企業がバイサイド候補とグループを形成すると脅威に感じる会社がCOC条項を含む契約の相手方である場合、法外に厳しい条件に変更することを契約継続の条件とする、契約解除されると事業継続が危ぶまれるので契約解除を強く主張しM&A破談に追い込む等が、相手方によるリアクションとして想定されるものです。なかでも、知的財産権の使用許諾に関する契約であり、契約相手方が海外企業の場合、承諾をもらうための苦労が大きくなるケースもありますので、留意が必要でしょう。

契約条件が厳しくなると、企業価値が低下し、自動的に株式価値も下がりますから、セルサイドとしては残念な結果になります。バイサイドとしても企業価値が小さくなってしまうと買収する意義自体がなくなってしまうかもしれません。

M&A破談になると、せっかくDDまで進んだのに、またイチからやり直しになります。

バイサイド候補選びという初期的な段階から、COC条項の存在やリスクを念頭に置いておく必要があるということです。

とり得る対策

基本的に、セルサイドとバイサイドが協力して、心からの誠意をもって、契約相手方から承諾の同意をもらう努力は欠かせません。

COC条項は、経営権が移動した後でなければ、本当の影響を測定できない面がありますから、バイサイドは慎重になりやすいという視点も重要です。

M&Aのセルサイドとしては、過小評価を受けないため、少なくとも、経営に重要な影響を及ぼしうる契約におけるCOC条項については、バイサイドに安心してもらうための準備が重要です。

バイサイド候補次第で契約相手方のリアクションが変わってくる可能性がある点を考慮しながら、最悪ケースでも企業経営に重大な支障がないように出来る限りの対策を講ずるべきでしょう。根本的な対策としては、契約相手方やCOC条項のない契約への切り替え、覚書等の締結等ですが、M&Aを検討している事実を伝えずに交渉することは難しいケースも多く、事前に進めにくい場合もあるでしょう。

このような場合、バイサイド候補別に、おおまかにシナリオを作っておき、そのシナリオ毎の想定損害や対策を検討しておくという事前準備が現実的です。また、COC条項のある契約が仮に解除されてもターゲット企業に生ずる被害が限定的である場合には、無理に承諾をもらいに行かず、先送りする方法、レプワラ・インデム問題にすり替える方法もあると思います。

特に、地方企業がターゲット企業の場合、M&Aに慣れていない方が契約相手方であるケースが増えてくるかと思います。そういう不慣れな契約相手方は、新オーナーが、一部上場企業に変わったので安心ということもあるでしょうが、新たな株主が海外企業や投資ファンド等と聞くと、漠然とした不安を覚える方も多いと思います。

COC条項というM&A戦略全体からするとオマケのような問題のために、最適な事業計画を実現してくれそうな最適バイサイドを選び直すというのは非常にもったいない事です。

COC条項による重大な損害リスクがある場合のセルサイドへの影響

次のような「セルサイドにとっては望ましくない事態」に陥るリスクがあるのがCOC条項です。慎重過ぎで丁度よい重要論点ということですね。

・会社売却額の引き下げ
・レプワラ・インデム(表明保証と補償)
・部分後払い(エスクロー)
・M&Aプロセス仕切り直し

M&Aで高く売るのは簡単ではありませんが、ユニークな会社や一定規模以上の会社等、想定外の高みも可能な場合はいので、使えるM&Aバンカーと一緒に事前の準備を詰めてください。

☆ 人気記事ランキング ☆

    • M&Aバリュエーションの最高峰 | DCF法の基礎と限界
      まず、現実の値決め(腹から欲しい度)と理論的なM&Aバリュエーション(完璧なDCF法含む)は同じものではありません。 どんなに精緻なM&Aバリュエーションをバイサイド(買い手)に提示しても、実際の値決め(売却価格)が...

    • 知っておくべきM&Aプロセス(株式譲渡のケース)
      M&Aで一番多く利用されるスキームが「株式譲渡」です。これからM&A会社売却をしようとするセルサイドオーナー(売り手)は、株式譲渡の手続き(プロセス)の基本形だけでも頭に入れておきましょう。 M&Aプロセスの...

    • M&Aで最高値で売る義務「レブロン基準」とは?
      今回は、M&Aで会社経営権を第三者に譲渡する場合に「堂々と最高値での会社売却を目指してよい理由」をご説明します。 また、この当然の権利が失われやすい背景をご説明しつつ、とはいえ、現実問題として、相手が納得しないとお金は出てこ...

    • 銀行に評価される会社が高く売れるというのは本当か?
      M&Aという取引は、「ターゲット企業(売り手企業)の経営権を売買する取引」です。 経営権を具体化するのは株式ですから「株式(エクイティ)市場」に属するものであることが大前提です。 銀行ローンが属する「信用(クレジット)...

    • M&Aにおける双方代理リスク
      双方代理リスクとは? 双方代理は原則禁止 双方代理は民法108条で原則として禁じられており、例外的に両当事者(本人)が事前に了解している場合にのみ許容されます。M&Aで会社売却を検討するセルサイドオーナー(売り手)は、...

    • 会社の売却理由として「良い理由」と「悪い理由」
      今回は、M&Aの目的を「好条件での売却」に設定する場合の売却理由として、どんな理由が「良い理由」、どんな理由が「悪い理由」に聞こえやすいか、そして、売却理由の聞こえ方次第で「創業者利潤にどんな影響」が生じるのか、を説明させていただ...

    • M&A会社売却の破談リスク:COC条項とは?
      チェンジオブコントロール条項(COC条項:Change of Control条項)とは、M&A会社売却を実行することで、経営権(支配権:Control)が、今までのオーナー(売り手:セルサイド)から、第三者(買い手:バイサイド)に...

    • 投資銀行の肩書って意味不明ですよね
      投資銀行では、若い青年なのに副社長(ヴァイス・プレジデント)などという肩書を持つ人がたくさんいます。副社長よりもディレクターの方が偉いというのも日本人としては不思議な感覚です。 今回は投資銀行のタイトルの上下関係と個々タイトルに求めら...

    • 問題になりやすい「のれん」。実は全企業の味方。
      暖簾(のれん)とは、企業が苦労して築いた競争優位の証です。 「企業価値を最大化しよう。」「上場株式の株価を上げよう。」「お客さん満足度(CS)を向上しよう。」「従業員の満足度(ES)を上げよう。」 これらは通常「良いこと」とされます。 ...