2020
01.18

M&A売却成功の入り口:グローバル企業のAR | 優良IMの原形

M&Aのお金(価格・税金), M&Aのマーケティング, M&Aの開示資料

ご自身の会社のM&A会社売却や資金調達等をご検討中のオーナー社長様へ。

「M&A仲介会社に丸投げ」が、典型的失敗パターンなので、少しだけ努力して「人の行く裏に道あり花の山」を目指しませんか?

今回は、「一週間で誰でもできる小さな努力」として推奨している「アニュアルレポート(AR: Annual Report)を読んでみる」をご紹介したいと思います。

そもそも、アニュアルレポートを読んだことはありますか?

アニュアルレポートとは、簡単に言えば、顕在・潜在株主に対し「去年まではこうでした。これからこうなります。こうします。だから、うちの株を安心して買ってください。」というキャピタルマーケティングツール(資本販促ツール)と言えるものです。平常時の株式売買とM&A・資金調達といった目的の違いや、マジョリティ(過半)・マイノリティ(少数)という点で、多少の違いはありますが、本質的に同じものです。

 

欧州上場企業のアニュアルレポートはすごい

自社の株式を買ってもらうための必要条件に「会社の魅力をしっかり伝えきること」が挙げられます。当然ですね。

常に自社の株式を投資家に買ってもらいたいと思っている世界トップクラスのグローバル企業(特に欧州系)が「どのような創意工夫をして株式を買ってもらおうとしているのか」を知ることは有意義です。

少数株主向けなのに、このボリュームとクオリティなのか!」と驚かれること請け合いです。

規制や横並びでやや形式的な日系上場企業の有価証券報告書とは一線を画す、実用的かつ美しい仕上がりの非常に立派な資料となっています。

本記事内で、優秀なアニュアルレポートを公開している欧州企業をご紹介してますので、ぜひ参考にしてみてください。

 

欧米M&AハウスのM&A開示資料はもっとすごい

日本では、一流金融機関のM&A部隊でも数十ページ程度、両手タイプの仲介やネットマッチングタイプですと、ゼロから数ページ程度と、ささやかな開示資料しか用意しませんが、欧米の一流M&Aハウスは、非常に立派な欧州系アニュアルレポ-ト以上のボリュームとクオリティのM&A用開示資料(IM: Information Memorandum)を用意します。(日本でも外資系投資銀行等の例外的なM&A部隊は、欧米一流M&Aハウスレベルの開示資料を用意します。)

アニュアルレポート(AR: Annual Report)は、通常100ページくらいに収まります(巨大金融や自動車等の場合は300-500ページ)が、大きめのM&A案件の開示資料は、はるかに分厚い資料(IM: Information Memorandum)が買い手候補に提供されます(500-1,000ページ級も)。

欧米一流M&Aハウスと、一般的な日系M&Aハウスが用意するM&A用開示資料を比較すると、高級外車パンフレット(1車種に100ページ) VS 中古車チラシ(1枚で20車)くらい違います。

欧米M&Aハウスの開示資料の内容が濃く、美しいのは一体なぜかということですが、その方が会社を高く売れて売り手オーナーもM&Aハウスも潤うし、そうしないと買い手は魅力に気づかない、さらにDD後のディールブレイク(お互いに手間とコストをかけて、すべてが無駄に終わる)を避けたいからです。つまり、その方が合理的に有利だからに決まっています

日本では、事業承継ブームですから、1件を大事に高く売るよりも、1/50の手間で10倍の案件数を処理することを選んでいるM&Aハウスが多数派になっていて、チラシ以上の手間はかけたくないし、そもそも異業種出身者の寄せ集めなのでやりたくてもできないからでしょう。つまり、その方が合理的に有利になってしまっているということです(件数主義のM&A助言会社にとっては)

高級外車や高級時計などは、せいぜい数百万円から数千万円の買物をしてもらうためだけに、ものすごい手間とお金をかけて、少しでも高級感を感じてもらえるよう、あらゆる努力をしています。そうじゃないと1つも売れないからです。

いわんや数億円、数十億円の会社を買ってもらう場合をや!です。

しかも、M&Aで会社売却をする際、想定読者はデイトレーダーではありません。最低でも51%、多くのケースで100%の株式を握り、経営権を現オーナーから引き継ぎ、経営に付随する全リスクも背負うことを検討中のM&Aバイサイド候補です。つまり「支配株主候補者向けアピール資料」が必要なのであり、アニュアルレポート以上の「濃度」が必要なのです。

もちろん、M&Aの成否を左右するのは紙の資料だけではありません。しかし、紙の資料を作成する過程で、口頭の提案内容もどんどんブラッシュアップしていくわけですから、紙の資料は本当に重要なのです。紙の資料のクオリティと提案クオリティと売却価格水準は、相乗効果的に高め合う関係にあると考えてよいでしょう。

資料の中身(ビジネスモデル、業績見通し、後継者候補、管理体制等)自体を売却前にピカピカに磨いておくことも非常に大事です。

ただ、今の状態をはるかに下回る状態、つまり大幅マイナスに勘違いされるのは「もったいない」のです。

 

売り手が目指すべきは「欲しい+安心⇒しょうがない」

「圧倒的なネットワークを誇るM&A仲介会社なら安心だろう」という考え方は、たしかに、平凡な零細企業を売却する場合にはバッチリ当てはまります(売れればラッキー、バッターボックスに立たないと始まらない、打席数確保が最重要なので)。

しかし、ユニークな強みを持つ会社一定以上の規模の会社急成長が見込める会社の場合、いくら打席数だけ増やしても、球種も選別できないバッターがぶんぶん空振りするだけでは、無意味どころか(情報漏洩リスクや機会損失リスクなどもあって)むしろ危険です。

最適な買い手候補を探し出し、「会社の魅力」を伝えきり(→「欲しい」)、「シナジーの検討材料」を先読みして提供し(→「他には渡せないぞ」)、リスク対策で腹落ちしてもらい(→「なら安心だ」)、買収後の手間を軽減してあげ(→「調整EBITDAを削る要素は残ってないな」)、適正な将来期待ベースの価格で買ってもらう(→「しょうがない。これだけの価値はある!〇倍で評価してあげよう!」)という思考を形成してもらえるかどうかが決定的に重要なのです。

しかも、ぜひ売りたい相手(適正評価で買う自信があり、のれんを理由として非合理的な値下げをしない)=M&A能力・経営能力の高い相手(特定の会社の買い手として存在するのは通常僅少数だけ)=見つけること自体は簡単(少ないので)=結果を左右するのは「創案力・提案力」という恒等式が成立します。

つまり、ユニークな会社・規模のある会社・成長中の会社を売る場合には、提案先数を確保するに過ぎない「圧倒的ネットワーク」は圧倒的に重要でなく(実はどうでもよい。仲良しでないと意味がないし、仲良しすぎても信用できないので意味がない)、「ピンポイント・ハイクオリイティな創案力・提案力・実行力」の方が圧倒的に重要なのです。

「経営能力の高いたった1社に最高条件で売れれば完璧であり、極秘情報を明かすの先は最少限にとどめるべき」がM&A会社売却の鉄則ですので。

つまり、平凡・零細規模は、「下手な鉄砲数撃てば当たる戦法」しかない。プロは雇えず、着手金無料のセミプロ・アマチュア・機械に任せるしかない以上、マッチングチャンスを増やすこと、コストを安く済ますことに徹底した方が、最終的に成功率が上がります。

一方、ユニーク・中小以上規模の会社を売却したい場合は、「M&Aバンカーの能力」で結果がほぼ決まりますから、直接担当者の能力・意欲・フィット感等を基準として選ぶ必要性が高いわけです(ちなみに、弊社SCAの場合、マッチングの妙のみならず、潜在能力を余すところなくアピールし、余計なディスカウントを受けないよう、潜在能力が伸びやすいように、事前準備対策もしっかりご提供しますので、大手上場M&A仲介会社の想定売却価格比2-3倍の条件で成功するのは当たり前、10倍以上という大成功事例も実在します。)。

ダメなM&A開示資料とよいM&A開示資料

ダメなM&A開示資料は「M&Aの目的を実現できない資料」です。

せっかく存在している「会社の魅力」がペラペラ開示資料で相手に全然伝わらないようでは「ないのと同じ(買い手の棚ぼた OR 放置され腐る運命)」です。

存在に気づかれないと、Q&Aで質問することもできませんから、やはり「ないのと同じ」です。

数十年の苦労の結晶」がM&Aバリュエーションの世界の中でゼロになる瞬間です。

外資系の提案書(ピッチブック)では、「メッセージは必ず3つにまとめろ!」と徹底指導されます。無理やりにでも3つにまとめるのです。そして、詳細情報が記載されている資料(M&Aの場合はIM: Information Memorandum)は別に用意して、スタッフがしらみつぶしに確認できるようにするわけです。

非常に優秀な人だとしても、膨大な情報について口頭で一回聞いただけでは、理解できるのはせいぜい1割2割でしょうし、人間が一度に覚えられるのは頭の良しあしに関わらず3つだけという調査結果があるからです。

つまり、提案現場でM&Aアドバイザーが言葉巧みに説明できていたとしても、提案現場に最終意思決定者がいないケースも多いでしょうから、「伝わりさえすれば、化学反応が連鎖するであろう魅力」がその最終意思決定者に的確に伝わるか不安が残ります。

エグゼクティブサマリーとその詳細にブレークダウンしたM&A開示資料(優良IM)があれば、問題の多くは解消できます。

では、どのような開示資料が望ましい形でしょうか?参考になるものはあるでしょうか?

M&A用の開示資料は、厳格な守秘義務を伴い、トップシークレット級の対象会社の成長・差別化の源泉を開示可能な範囲で記載している資料でもあるため、仮にすでに終了した案件の資料でも、仮に守秘義務期間が終了していたとしても、一般公開することはできません。

弊社にもIMを参考に見せてほしいと依頼されることがありますが、弊社にご来社いたいだいた際、サンプルをお見せするのが限界で、それ以上の要求はすべてお断りしています。ちなみに弊社が作成するM&A用開示資料(IM: Information Memorandum)は、M&Aの目的、対象会社の状況に応じてオーダーメイドで設計しますが、中堅・中小企業のM&A会社売却の場合、持ち込み案件数の増加、読者は経営意思決定クラスで多忙といった事情も勘案し、80ページを基本ボリュームとし、伝えたい内容を文章・図表・グラフによって凝縮、読者が短時間で重要情報を頭に入れられ、関心を呼び起こし、次のアクションにつなげたくなるよう毎回創意工夫してます。

結局、もっとも雰囲気が近いものが、欧州上場企業のアニュアルレポート(AR: Annual Report)ではないかと思われます。

 

参考となる欧州企業アニュアルレポートの例

株を買ってもらうための優れた開示資料」の好例(主に欧州系グローバル企のアニュアルレポート)をピックアップしてみました。

以下のリンクをクリックしてみてください。PDFファイルをダウンロードできます。

■ Nestle(ネスレ(スイス)):

https://www.nestle.com/investors/annual-report

 

■ Anheuser-Busch InBev(世界トップのビールメーカー(ベルギー)):

https://www.ab-inbev.com/investors/annual-reports.html

 

■ Daimler(自動車メーカー(ドイツ)):

https://www.daimler.com/investors/reports-news/annual-reports/

Daimlerはラクジャリーカー(ベンツ)を含みますから、350ページ強というボリュームに加え、美しい仕上がり、機能美を意識しています。自分の会社を売るなら、このように美しくラッピングしてもらいたいものです。どんなに良い品も「剥き出し」で売ると半値に落ちますので。

 

■ LVMH(フランス):

https://www.lvmh.co.jp/investors/publications/?publications=29

言わずと知れたヴィトンで有名、Diorと双璧をなすフランスのラグジャリーブランド。1ページの縦横サイズ、フォント、配置、あらゆる部分にさすがのこだわりを感じさせます。

 

日本の有価証券報告書(EDINETで取得可能)や、米国の10-K(日本の有価証券報告書に相当、EDGARで取得可能)と比較してみるのも面白いと思います。

ちなみに米国のAmazonやAppleのアニュアルレポートが意外とさっぱりしているのは、米国がレギュレーション大国だからでしょう。

彼らは、本格的なM&Aや大規模資金調達の時には、本格的なアピール資料が必要となるけれど、その時に投資銀行を使って作ればよいと割り切っているのでしょう。

 

■ Amazon:

https://ir.aboutamazon.com/annual-reports/

 

■ Apple:

https://investor.apple.com/sec-filings/default.aspx

 

■ Proctor & Gamble(P&G)

https://www.pginvestor.com/CustomPage/Index?KeyGenPage=1073748359

 

このように比較すると、欧州系は自由フォーマットのマーケティングツールの雰囲気が漂いますが、日米系はレギュレーション遵守の報告書というイメージを持たれるかと思います。

M&Aは開示資料に関する規制が(TOB時を除き)現状ないので、目的達成のため自分に有利な方法を採用すればよいわけです。

 

 

同業アニュアルレポートを読む副産物

優良な開示資料を読むと、副産物が手に入ることもあります。

単独での成長・改善アイデア:グローバル視点で見つかる日本の遅れがビジネスチャンス、優良企業の経営手法を参考に。

ある業種とのシナジーのアイデア:異業種・周辺業種の経営方針が、異業種間シナジー等のアイデアベースに。

管理体制等の欠陥の発見:M&A後は上場会社レベルの管理体制を要求されるケースが多く、理想を見れば、目標も決めやすくなります。

M&Aを「法人間の結婚」に例えるならば、将来性のあるお婿さん(買い手)に、大事な娘(対象会社)を嫁がせたいのが、親御さん(売り手)の本音でしょう。

できれば、今後の世界の流れを先取りして経営している「本物の経営者」が存在する会社に売りたいと思うはずですし、M&A経営能力の高い方の方がシナジー効果も大きくなりやすいため、売却額の期待値も高くなります。

企業は、グローバルな潮流に抗うことは難しいですから、グローバルトップ企業が計画していることを知っておくことは、売り手として買い手の能力を評価するにあたり、大事な情報となるはずです。

ついつい身の回りのことで忙殺されがちな中堅・中小企業のオーナー社長も、グローバル・オープンイノベーション感覚で心構えを少し解放すると、さまざまな部分でプラスが生まれると思います。

 

最後に

同業世界トップ3のアニュアルレポートを、1週間位かけて、流し読みしてみてはいかがでしょうか?

巨大企業であれば、通常、会社HP上で無料公開してますので、取得自体は簡単です。

「社名+Annual Report」とか「社名+Annual Review」などで検索すれば出てきます。

どうしても英語資料を読むのが苦手な方は、お気軽にお声がけください。なんらかのお手伝いはできると思います。

 

 

 

☆ お問合せ(お問合せフォーム/お電話/メールご都合のよろしい方法で) ☆

ごニーズに真摯に向き合います。

問合せ・割引・紹介

 

☆ 人気記事ランキング ☆

    • M&Aバリュエーションの最高峰 | DCF法の基礎と限界
      まず、現実の値決め(腹から欲しい度)と理論的なM&Aバリュエーション(完璧なDCF法含む)は同じものではありません。 どんなに精緻なM&Aバリュエーションをバイサイド(買い手)に提示しても、実際の値決め(売却価格)が...

    • 知っておくべきM&Aプロセス(株式譲渡のケース)
      M&Aで一番多く利用されるスキームが「株式譲渡」です。これからM&A会社売却をしようとするセルサイドオーナー(売り手)は、株式譲渡の手続き(プロセス)の基本形だけでも頭に入れておきましょう。 M&Aプロセスの...

    • M&Aで最高値で売る義務「レブロン基準」とは?
      今回は、M&Aで会社経営権を第三者に譲渡する場合に「堂々と最高値での会社売却を目指してよい理由」をご説明します。 また、この当然の権利が失われやすい背景をご説明しつつ、とはいえ、現実問題として、相手が納得しないとお金は出てこ...

    • 銀行に評価される会社が高く売れるというのは本当か?
      M&Aという取引は、「ターゲット企業(売り手企業)の経営権を売買する取引」です。 経営権を具体化するのは株式ですから「株式(エクイティ)市場」に属するものであることが大前提です。 銀行ローンが属する「信用(クレジット)...

    • M&Aにおける双方代理リスク
      双方代理リスクとは? 双方代理は原則禁止 双方代理は民法108条で原則として禁じられており、例外的に両当事者(本人)が事前に了解している場合にのみ許容されます。M&Aで会社売却を検討するセルサイドオーナー(売り手)は、...

    • 会社の売却理由として「良い理由」と「悪い理由」
      今回は、M&Aの目的を「好条件での売却」に設定する場合の売却理由として、どんな理由が「良い理由」、どんな理由が「悪い理由」に聞こえやすいか、そして、売却理由の聞こえ方次第で「創業者利潤にどんな影響」が生じるのか、を説明させていただ...

    • M&A会社売却の破談リスク:COC条項とは?
      チェンジオブコントロール条項(COC条項:Change of Control条項)とは、M&A会社売却を実行することで、経営権(支配権:Control)が、今までのオーナー(売り手:セルサイド)から、第三者(買い手:バイサイド)に...

    • 投資銀行の肩書って意味不明ですよね
      投資銀行では、若い青年なのに副社長(ヴァイス・プレジデント)などという肩書を持つ人がたくさんいます。副社長よりもディレクターの方が偉いというのも日本人としては不思議な感覚です。 今回は投資銀行のタイトルの上下関係と個々タイトルに求めら...

    • 問題になりやすい「のれん」。実は全企業の味方。
      暖簾(のれん)とは、企業が苦労して築いた競争優位の証です。 「企業価値を最大化しよう。」「上場株式の株価を上げよう。」「お客さん満足度(CS)を向上しよう。」「従業員の満足度(ES)を上げよう。」 これらは通常「良いこと」とされます。 ...