2020
06.10

使えるM&Aバンカーの口癖「ここ何かおかしくないですか?」

M&Aのチーム管理

使えるM&Aバンカーの口癖に「ここ何かおかしくないですか?」があります。

セルサイドオーナー(売り手)のために働くM&Aバンカーの業務目的は、セルサイドオーナーの満足最大化です。「少しでも良い条件で売る」「確実に売る」「こういう相手に売る(売らない)」等のセルサイドオーナーの具体的なニーズを具現しながらM&Aディールを成約に導くことにあります。

単なる成約(売れればよい)ではなく、付加価値のついた成約(少しでもクライアントの満足を大きくするM&A)を目指すのは、セルサイドオーナーから報酬を貰う以上、M&Aバンカーの当然の義務でしょう。

使えるM&Aバンカーだけが見つけてくれる「道」

使えるM&Aバンカーは、当事者意識をもって具体的な自分の意見を形成するつもりで情報を分析するので「ここ何かおかしくないですか?」が口癖になり、使えないM&A業者は、案件を獲得できればよい、成約さえできればよい、と実は他人事で、聞いたことを鵜呑みにし「なるほど、なるほど!すごいですね社長!!」が口癖になります。

気分が良いのは後者かもしれませんが、役に立つのは前者です。

自分の会社について100%完璧に「M&A的角度からのアピールポイント」を語りつくせる人はまずいませんし、特に創業オーナー社長の場合、思い入れが強く入ってくる分、客観性が乏しくなりがちです。M&A会社売却において鵜呑みは非常に危険、モレがないかズレがないか、常に、プロとしての懐疑心を発動させないと「あるバイサイド候補にアピールできそうなある事実や可能性」を見逃してしまいます。たったそれだけで数億円もの価格ダウンになってしまうがM&A会社売却です。

聞いたことをそのまま信じて鵜呑みにするような人であれば、お金を払ってアドバイスしてもらう価値はありません。ご機嫌取りしかしてこない、イエスマンの部下に、オーナー社長の人生の大半が数字で評価されてしまうM&A会社売却を、絶対に一任できないのと同じです。

一方、使えるM&Aバンカーは、筆者の経験上例外なく、精神的・経済的に独立しているプロフェッショナルであって、クライアントのために誠実に仕事をする職業的倫理観を備えています。また、積上げ式の理解だけではなく、遥か頭上や歴史の流れの中で事実を把握し、ときに数学的アプローチ、心理学的アプローチでも問題解決方法を探ります。

使えるM&Aバンカーと誠実にディスカッションを重ねるうちに、必ず「何か」が見つかります。つまり「もっとも正しい売り方にたどり着くための気づき」が必ず見つかります。M&Aという険しい山道、迂闊に道を踏み外せば大ダメージにもなるM&A。セルサイドオーナーが山頂にたどり着くためのガイド(シェルパ)となってくれるのが、使えるM&Aバンカーです。

使えるM&Aバンカーが実施する分析とは

使えるM&Aバンカーは、セルサイドFAに就任すると、まず最初にターゲット企業(売り手企業)を徹底的に分析します。

例えば、分析の例はこんな感じです。
1.過去5年程度の仕訳データを提出していただき、財務モデル(フィナンシャルモデル)の形に整える(そのためM&AバンカーはFA(Financial Advisor)と呼ばれる)。
2.どのような損益構造なのか把握するため感応度分析をする。
3.特に重要な科目(通常、売上高、売上原価、販売費等)をブレークダウンしてさらに徹底的に分析する。必要に応じて、財務モデルと連動する収益モデル費用モデル投資モデルを整える。
4.詳細なコスト分析をして削減可能コストを見極める。
5.数字が分かってきたら時間経過市場環境や競争環境の変化との関係を把握するために徹底的に関連情報を集める。
6.ターゲット企業の強み・弱み等を把握する。同業他社との差別化要素を把握する。参入障壁を把握する。
7. 財務金融技術の利用可能性を検討する(これもFinancial Advisorと呼ばれる所以の1つ)

投資銀行流のM&Aバンカーは、このような基本的な分析を数週間から2カ月程度で実行します(弊社の場合、データを提出いただいてから原則3週間以内に実行することを目標にします)。

ちなみに、使えるM&Aバンカー流の初期準備は、次のような流れです。セルサイドオーナーはデータを提出して質問に回答するだけなので負担はほとんどありません。

上記のような徹底分析作業と並行して、
8. バイサイド候補のリストアップ(Long List)やIM(Information Memorandum)等の詳細開示情報の準備もしつつ、
9.分析とディスカッションを繰り返しながら、ようやくバイサイド候補のリストを絞りこみ(Short List)、
10.各バイサイド候補が関心を持つであろうポイント等をティーザー(Teaser)にまとめる(バイサイド候補タイプ別に内容も買えて)
という順番です。

使えないM&A業者の「真逆の流れ(いきなり打診→徐々に資料を準備)」であることに気づきましたでしょうか?

使えないM&A業者(鵜呑み・マニュアルタイプの人)の仕事の順番は、思いつく限りの長い候補リスト(Super Long List)をいきなり作って、1ページのノンネームシート(=記号と過去の数字)で早速打診に動き、何よりも打診数(打席数)を誇り、うまくいきそうになってから10~20ページくらいの少し詳しい資料をコピペして用意する、そして、ファーストベースに出塁できたら成功と満足するわけです。10打席1安打という打率でも気にしません。全安打が単打でも、本人的には市場平均(相場)なので満足なのです。

一方、使えるM&Aバンカーは、まず徹底的な分析をして、詳細な資料作りを進めるなかで、あらゆる角度からの気づきを得て、攻めと守りのバランスを最適化(これに約1~2ヵ月程度使う)し、それから狙いを定めて打診に動き、ピンポイント狙い撃ちで最高の結果を出す、です。打席数は気にせず、むしろ危険なので打席数を増やさないように気を配り、5割以上の打率や、できれば平均二塁打以上の長打率に徹底的に執着します。

真逆ですね。結果を期待できるのは当然、後者(使えるM&Aバンカー)です。

公正価値(Fair Value)による売却対価(純資産ベース価格の2倍以上になることも多い)を享受でき、かつ②限定的な情報漏洩リスクだけ負担いただき、③最適な譲渡相手への経営引継ぎが可能になる、という付加価値が、M&Aバンカー(=片手タイプのFA)を雇うメリットと言えるでしょう。もう1つ重要なメリットは、作業量の多い仕事のやり方のM&Aバンカーにとって、安易な案件受託は難しいため、成功可能性を慎重に吟味してから受託する点です。つまり、もし受託してくれたら④かなり高い確度でのM&A会社売却成功が半ば約束される点でしょう(弊社の場合、8割以上の打率、純資産ベース価格の平均3~5倍という本塁打(ホームラン)率です)。結果として「費用対効果(コスパ)が良い」のがM&Aバンカーを雇うメリットです。

分析の合間のディスカッションにおいて「ここ何かおかしくないですか?」という口癖が登場するわけです。

使えるM&Aバンカーは、様々な業種の様々なビジネスモデルについて徹底的に分析した経験があり、数字感覚が血肉化されています。直感が冴えていて、いろんな気づきを与えてくれるのが「使えるM&Aバンカー」です。とはいえ、全業種、全シチュエーションで完璧な「どこでもなんでも使えるM&Aバンカー」はこの世にいないので、複数者を比較して「自分にとって一番使えそうと腹落ちできたM&Aバンカー」に依頼するのが正解なわけです。

あるターゲット企業(売り手企業)を分析していると「この会社のこの費用がやけに大きい」とか「売上の伸び方が競合企業と比較してなぜか遅い」とか「利益の変動性がなにかおかしい」とかの直感的な気づきを得ることがあります。特に社歴の長いオーナー系企業の場合、ほぼ100%なんらかの「直感的におかしい点」がみつかります。筆者の経験上、間違いありません。その「直感的気づき」が数億円、ときに10億円に化けることもしばしばです。

「何かおかしくないですか?」と発言するM&Aバンカーの意図

1つめは「守り」です。万が一、ターゲット企業に故意か過失かはさておき、「会計上の粉飾」等とバイサイドに見做されかねない会計処理を発見したら、事前に善処策を検討しておくことができます。細かい法令・規則違反などもあるかもしれません。最悪ケースでは「治癒不能=買収不能」という評価となりますが、半年以上もM&A交渉を続けたあとで、バイサイドの会計DDや税務DDや法務DDで、重大な問題が発見され、「こんな状態なら買収できない」と破談になったり「大幅ディスカウントしてもらえないと買収できない」と安値売却に転じてしまうリスクはダメージが甚大であるため、悪いことほど正確に早く知っておく方が、セルサイドオーナーにも、セルサイドFAにも、当然バイサイド候補にもメリットがあります。単に過失による会計処理ミス程度であれば、適切に対処しておけばよいだけです。とはいえ、バイサイドDDで発見されて「指摘」を受ける事態になると、条件交渉上不利になるのは自明ですから、セルサイドが売り始める前に処理しておく方が賢明なわけです。

2つめは「攻め」です。こちらの方が重要なのですが、使えるM&Aバンカーが「使える」と評価される理由であるところの「他のM&A助言会社よりも高く売ることに成功する」ため「改善余地、成長余地、シナジー候補」を発見して、開示情報として整理したり、売却準備期間中に実現させてしまうためのものです。「もしかしたら、この費用ってずいぶん前から業者と交渉してないのでは?」「このオペレーションは、今までマンパワーでやってきているようですが、こんなテクロジーを使えば、早く、正確に、安く実行でき、人材確保の悩みからも解放されるかもしれない」などの「気づき」を得ておくことが、高く売る際にとても大事になります。1つの「気づき」があるかないかで、バイサイド候補が関心を示すか示さないかが変わってしまう微妙な世界がM&A交渉の世界です。つまり、たった「1つの気づきが数億円に化けるかもしれない」「1つの気づきで売れるか売れないかが変ってしまうかもしれない」のです。

分析作業の対価

さて、M&Aバンカーが実施する分析の「価値」が小さなものではないことをご理解いただけたでしょうか?場合によっては、セルサイドオーナーに「数億円分のプラスアルファの売却代金」を持ってきてくれるかもしれないのですから。100万円や200万円の着手金を節約することがいかに非合理的なのか、です。外資系投資銀行なら数千万円の着手金を請求するくらいです。分析の「価値」が高いから大企業は外資系投資銀行を雇うのです。

この分析作業は簡単にできる仕事ではありません。かなり広範囲の専門性が要求されますし、恐ろしいほどのスピードで処理する必要があるため、PCスキル等も高度なものが要求されます。多くの使えるM&Aバンカーは、自ら(もしくはスタッフを使って)大量のデータをVBA(ビジュアルベーシック)等で処理するためのコーディングもやってしまいます(筆者の知る使えるM&Aバンカーの大半は、自らコーディングするスキルも備えています。)。

この分析作業の「価値」は大きなものがあり、当然、無料で提供されることはありません。着手金が無料なら、1週間程度の簡単なヒアリングの後、早速バイサイド候補に打診する(使えないM&A業者)はずです。このスタイルがフィットするケースも多くありますが、少なくとも「ユニークな会社を高く売りたい場合」には、「分析の価値を捨てる=高値追求の機会を捨てる」のは非常にモッタイナイと思います。

つまり、多少の事前費用は覚悟しないといけないわけです。会社を高く売りたいのであれば。M&Aバンカーも高度専門的でかつ強烈な重労働でクライアントのために働くわけですので、セルサイドオーナーの「本当に売る覚悟」だけは確認させてあげる必要があります。そのためには、着手金(Up-front Fee)や月額報酬(Retainer fee)しかないのです。100万円、200万円の着手金も支払ってくれないなら「本当に売る覚悟があるのかわからない」となると「他の案件に力を割きたい」となってしまいます。

ただし、大企業ならいざ知らず、オーナー系未上場中堅中小企業がこの対価の満額分を事前に支払うことは困難な場合もあるでしょう。こういう場合にも、M&Aは上手くできていて、成功報酬の仕組みによって、事前の支払負担を小さく抑えることが可能です。

レーマン方式(Lehman Method)という成功報酬体系は、もともとリーマンブラザーズ(Lehman Brothers)という外資系投資銀行が開発したM&A成功報酬の計算式です。外資系投資銀行は必ず徹底的な分析をしますが、外資系投資銀行マンの時給は高額で、この作業に見合う着手金を支払うと、それだけで高額(=数千万円)になってしまいます。そこで、ごく一部だけ着手金等で受領することとして、大半は成功報酬で支払ってもらうことで、セルサイドオーナーの事前の支払負担が自動的に調整されるようになっています。

逆に言えば、レーマン方式による成功報酬を支払うのであれば、外資系投資銀行並みの高度な分析を要求するのが当然という見方もあります。しかし、日本は独特な市場慣行が定着していて、どうもそうではありません。「レーマン方式の成功報酬は、何の対価なのか」じっくり検討されてみてはいかがでしょうか?

何かおかしくないですか?」と会社の将来を真剣に考えてくれる価値は、小さくないと思いますよ。

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