2018
01.17

NDAの基本的な役割と失敗パターン

M&Aの契約

NDAの呼び方

NDAとはNon-Disclosure Agreementの略です。機密保持義務に関する契約書ということですね。

呼び方にはいくつかあります。CAと呼ぶケースは、Confidentiality Agreementの略です。

NDAの契約タイプ

差入れタイプ(片務型契約)と合意契約タイプ(双務型契約)の2種類があります。

基本的に、M&Aでは機密を保持する必要性が圧倒的に高いのはセルサイド(売り手)の方ですね。そのため、バイサイド(買い手)の機密を保持する必要性が特になければ、差入れタイプで済ますことが多いのが実態です。合意契約タイプですと、バイサイドの懸念も反映するため、何回も文言調整をする必要が生じ時間を浪費してしまいます。しかもバイサイド毎の文言調整なので、できるだけ差入タイプで済ます方法を模索すべきでしょう。

しかしながら、例えば、合併や株式交換など、セルサイドだけではなくバイサイドも同時に評価される対象になるようなM&Aスキームの場合には、合意契約タイプが使用すべきです。また、改善・成長・シナジーに関する綿密なディスカッションをしたい場合なども、バイサイドの機密情報を開示することもありますので、合意契約タイプが使用すべきでしょう。

許容される状況ならば、効率的に済ます、という考え方が正解です。

NDAを入れてもらった瞬間に発生するリスク

セルサイド(売り手)に「M&Aによる会社売却の成功」というミッションを依頼されたセルサイドFA(M&Aバンカー)は、その目的(=好条件での売却)を達成するため、ターゲット企業(売り手企業)の買収に興味のありそうなバイサイド(買い手)候補に様々な情報を開示します。

つまり、まず初期的検討資料の開示をして、具体的な関心を確認できてから詳細情報開示(詳細な資料と質疑応答、現地調査等)をします。こうしてセルサイド企業(ターゲット企業)の営業機密財務情報などの情報が、バイサイド候補という外部第三者、場合によってはターゲット企業の競合他社に、開示されることになります。

つまり、外部に漏洩すると問題が生じる機密情報や、セルサイドオーナーがM&A会社売却を具体的に検討している事実を、外部の第三者に開示することを意味します。

競合他社に機密を流用されるかもしれない、優秀な人材を引き抜きされるかもしれない、「セルサイドオーナーが身売りしようとしている」と悪意ある噂を流されるかもしれない、といった不安を感じない人はいないでしょう。

バイサイド候補への具体的提案段階に入った瞬間から、セルサイドは、不測のリスク(最悪、取返しのつかない甚大な被害)を負うということになります。

そのため、セルサイドとしては、M&Aについての知識不足のまま、M&A業者に丸投げせず、信頼できるM&Aバンカーと相談しながら、情報管理について積極的に関与すべき、効率を重視しすぎるとリスクが高まりやすい、という点を肝に銘じる必要があるのです。

オーナー自身や家族のため、会社の役員・従業員のためにも、単なる儀式のような感覚で済ますのではなく、慎重に対処すべき、とても大事なプロセスが「NDAの差入れ又は締結」です。

M&Aとは「情報の精製と伝達」に尽きます。情報管理がいい加減な人は信用できませんし、肝心の腕の方も不安になりますからね。

NDAを甘くみたことによる失敗パターン

機密保持契約(NDA)の表面的な役割は、『万が一にも、セルサイドオーナー(売り手)及びターゲット企業(売り手企業)が、二次情報受領者(=バイサイド企業候補)による情報漏洩に起因する被害を被らずに済むよう、一次情報受領者であるM&Aアドバイザー、二次情報受領者であるバイサイド企業候補等に対し、予め合意した範囲の外への情報流出を厳しく禁じること』となります。

そして、実質的な役割は、NDAで課した「義務」と「賠償責任」を土台として、『具体的な情報開示先と開示内容を適度にコントロールすること』です。

これにより、M&Aアドバイザーは、いくら案件成約のためとはいえ、①見込みのないバイサイド候補への開示、②関心があっても買収できないバイサイド候補への開示、③関心が確認できていない段階での不用意な詳細情報の開示、④機密情報流用目的の悪質なバイサイド候補への開示、といった問題のある情報開示(=M&A打診)」を抑制せざるを得なくなります。

「M&A業者にそんな無意味なことをする必要があるのか?」という疑問が生じると思いますが、セルサイドとM&A業者との関係次第で大いにありうるのです。

事実を知ることは重要です。M&Aは巨額のキャッシュが動く世界ですので、良心的な業者もいれば、悪質な業者も当然存在しています。

例えば、バイサイドをお得意様として、明白にセルサイド(=一度の関係で終わる一見さん)よりもお得意様を優先する両手タイプのM&A業者も少なくないようです。

また「売却相談に来た10社のうち、実際に売れるのは1社程度(つまり売却が実行されるのは10%という低確率)」という統計(分母の定義次第でもっと確率が低くなる)もあるようです。

これら事実が何を意味するのか?

つまり、本来、ターゲット企業(売り手企業)の機密情報等を厳格に管理しなくてはいけない立場に置かれているのに、M&Aアドバイザーが誘惑に負けると、どうなるか?もし、あってはならない使い方をするインセンティブ(動機)があって、バイサイド候補との接点をM&Aアドバイザーだけが管理でき(手段)、表面的にセルサイドのために努力しているように見せかける(正当化)こともできてしまうなら、どうなるか?です。

『「動機」と「手段」と「正当化」が重なるときに「不正」が起きやすい』という人間の行動パターンは「不正のトライアングル」と呼ばれています。公認会計士が会計監査をする際に常に意識するよう義務付けられているものです。

どんな「不正」が起きうるのか?

パっと思いつく「不正」としては、①多数のバイサイド候補から情報提供料(1社につき100万円前後)を受領するため機密情報をチラ見せしたり、②お得意様(バイサイド企業)との別案件を成功させるための道具として活用したり、③お得意様の新規開拓のためのお土産として利用したり、といった「不正」が起きても構造的におかしくありません。セルサイドはリスクだけを負っています。

特に、M&A業者との業務委託契約の中で、上記のような「不正」が「業務」として扱われるような書き方をされている可能性すらあります。重大な取引なのに、特段の規制がないため、悲しいことに、誘惑に負け、あってはならないことをする業者も存在しています。

「現実的に9割は売れない。売れないと成功報酬を貰えない。どうやら売れそうもない。手元にその売れそうもない会社の機密情報がある、これを見たがる会社はいる。うちは買い手からも報酬を貰ってよい。報酬の形は色々ある。」と、不誠実なM&A業者が考えたら、どうなるか?です。

「動機」「手段」「正当化」が揃ってしまいます。ノルマが厳しく人の出入りが激しいM&A助言会社ほど、このリスクは増大するでしょう。

余計なリスクを負いたくなければ、「両手タイプのM&A業者にだけ、このリスクがある」という構造に着目し、片手タイプのM&A業者を選ぶべきです。そもそも片手なので「動機」がなくなり「不正」をする意味がなくなるからです。また、通常、両手タイプよりも片手タイプの方が、会社売却価格が大きくなりやすいメリットもあります。

特に、M&Aを検討していることが同業に伝わると業務運営上の問題が大きいターゲット企業、事業ノウハウや開発技術等、流出すると取り返しのつかない機密情報(研究開発や営業ノウハウ等)を保有しているターゲット企業にとっては、NDAに始まる情報管理はとても重要な手続きです。

ユニークな強みがある面白い会社ほど、情報漏洩時の被害が膨らみ、また、やり方ひとつでM&Aの成果が大きく変わる(想定以上に高く売れる)可能性を秘めています。NDAと情報管理の重要性を改めてしっかりと認識していただくとよいと思います。

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