2020
03.09

不景気・不況時における会社売却はどうすべき?

M&Aで会社売却をする心構え, M&Aのお金(価格・税金), M&Aのスキーム, M&Aのプロセス

よく言われるのは「会社の売り時は少しもったいないと思うタイミングがベスト」。つまり、 売却対象企業の業績が天井を迎える少し前に売りましょうというM&A格言があります。証券業界における「頭と尻尾はくれてやれ(売り時、買い時に拘り過ぎると機を逸する)」の精神と通じます。つまり「欲張りすぎると損します」という意味です。

しかし、これは片手落ち、独りよがりの格言なのかもしれません。

不景気・不況時の会社売却を整理する前に、そもそも会社売却の「環境」とは何かを整理したいと思います。

会社売却の「環境面」とは?

会社売却の「環境面」を考慮していないからです。金融・マネーという事業・ビジネスの裏面、リスクマネーの供給という「環境面」も考慮しないと、最高の結果を手にしにくいのに、多くのセルサイド(売り手のオーナー)が、どうしても真逆の動き(最悪期に手放そうと焦る)をしたがります。「最悪期での底値売り」に突撃してしまうのです。

もっと良い選択肢をサーチしようとせずに、手っ取り早く、売上を立てたいM&A業者に誘導されやすいのが、不景気・不況のタイミングでのM&A会社売却です。M&A業者は不況期になると今までの案件が中止になり、突如、資金繰りが苦しくなりますので、同じく資金繰りに苦しむセルサイド(売り手)の心理に付け込んで、非常にモッタイナイ会社売却を推奨しやすくなるわけです。

不況でリスクマネーが枯渇している「売却環境」、不況で業績の底が見えない「売却対象」。二重の下押し圧力です。ダメダメな売り時ということです。こういう状況で、なんの工夫もしないで売ろうとすると、売れない、売れても足元を見られた激安価格になってしまいがちです。

資金面に問題があるとしても、早急に、社内におけるコスト削減回収サイクルの短期化支払サイクルの調整、政府系・民間銀行系・ノンバンク系、親しい富裕層等などからのローンの可能性を追求してから、最後の手段として資本構成を変化させるM&A(株式譲渡や第三者割当増資)を検討すべきです。

一般に、 M&A業者のビジネスは、人件費・不動産賃料・集客コスト等の固定費が重い事業ですから、「短期的な売上を欲しがりやすいポジション」に位置します。こういう不況・不景気のとき、最適な助言が「リスクマネーが戻ってくるまで、少し待ちましょう。その間、体力を維持するとともに、今だからできることをやっておきましょう!」だとしても、一部のM&A助言会社のポジショントークとしては、「今のうちに、無理してでも売っておかないと、永久に売り時を逃しますよ。倒産してしまってからでは遅いのです‼」となりやすい「クライアントと利益相反構造を持つ事業体」であることを忘れてはなりません。

不況期に「急いで売るべきか」もしくは「少し待つべきか」という難しい問題は、①ターゲット企業(売り手企業)の事業内容が今後の環境変化にどのような影響(内容・程度)を受けるのか②不況突入と景気回復の予想タイミング(マクロ経済、金融・財政政策、クレジットサイクル等を考慮)、③M&A準備進捗状況(バイサイド企業の特定状況、条件交渉段階、足元業績の重要性等)、④不況期にできる改善・治癒施策の予想インパクト等を総合的に勘案した上で判断すべきです。

「しかし、苦しい。もう自分1人がオーナーとして、個人で会社全体を支えるのは限界だ。今のうちに誰かに売っておきたい」という想いは、(痛いほどよくわかりますが)みんなが同じように考えているので、残念ながら、バイサイド企業にも、DDベンダーにも、当然のことながらM&A業者にも、確実に見透かされてしまいます。ここで急に増えるバイサイドは、(悪いことではありませんが)、やはり、「バーゲンセールだから寄って来る」わけです。

余裕があるならば、好機は必ずまた来るので、それまで待ち、それまでの間がもったいないので、不況時の対策や次の成長の基礎を築くなど等し、より「ダウンサイドリスクの軽減された強固な事業体にブラッシュアップしておくこと」を強く推奨します。

リスクマネーを供給する側(バイサイド)の立場になって考えてみれば、不況時に適正価格もしくはそれ以上の価格で買うでしょうか?彼らも守るべき家族がいます。儲けないと投資する意味がないわけです。

あなたも十分儲かるから、適正評価で買って下さい。うちの会社の適正評価にあたっては、こういう面とかこういう面を正確に理解した上で、合理的に評価してください。」がセルサイドの正しい思考回路なのに、「自分だけ困難から逃れたい。でも少しでも高い価格で買ってほしい。早く、楽に売りたい。」という思考回路が透けて見えるならば、情報の非対称性を悪用した絶好のぼろ儲けチャンスにしか見えません。M&A業者の件数コレクションに加わって、気づいたら安値売りで終了(しかも安値売りであることに気づかない)となるのが関の山です。

大事なことは、「採りうる選択肢」を全て探索(サーチ)して、合理的に比較して、決断することです。

ただし、必要以上に悲観する必要はありません。

景気は必ず循環しますし、不況時にどのようなアクションを実行したかで、会社売却の成果は大きく変わるということも意味します。

不況時の売り方不況時の準備不況脱出後の正しい売り方は存在します。

また、例外的に不況期の方が儲かったり、景気循環が影響しにくいビジネスも存在します。個別状況を精査してみると、より正しい方法がみつかるかもしれません。しかし、リスクマネーはマクロ的に動きやすい面が強い、というのは真理であろうと思います。このような場合、事業面は不況でプラス、環境面は不況でマイナスとなるので、この状況に適した方法を選択するのが正解なわけです。

M&A会社売却で考慮すべき景気循環

景気は循環します。好況後退不況回復と、あたかも自然の季節のように繰り返されるわけです。以前は10年周期とか数十年周期と言われていましたが、肌感覚としても、統計数値から見ても、もっと短く複雑なサイクルになっていると考えておくべきでしょう(すぐ回復するのでプラス、すぐ不況になるのでマイナスという二面性があります)。

本記事を執筆しているのは、2020年3月9日です。コロナウイルスパンデミックに発展(現地時間2020/3/11にWHOがパンデミックと認定)し、世界中の経済を停滞させるリスク、オリンピックの延期・中止や、人が交錯・集まる前提のビジネス、運輸(空運・陸運・開運)、レジャー、インバウンド、外食等のビジネスが、事業存続・資金繰りのリスクに直面し、様々な悲観的観測が現実になってきています。

これに限らず、世界的な資源・移民・格差問題・地政学リスクが不況の原因となり、猛烈な自然災害も突然到来するかもしれませんし、隣国の経済状況日本の政府債務問題も時限爆弾です。次々に湧き上がる技術革新もプラスにもなれば、局所的・短期的にはマイナスにもなります。

不況に陥る、不況が続く原因は、数えてもきりがありません。不確実性が高い時代とも言えますが、一方で確実に言えることもあります。どんな不況・不景気・困難もいつか必ず収束する、という点です。大事なのは、苦しい時期をどう使うか逆転の発想を持って、バランスよく攻めに転じることができるか、です。

マクロレベルのリスクマネー供給

本記事執筆時点において、先進各国は、さまざまな背景により、超金融緩和を継続しています。つまり、各国の中銀が在市場マネーを潤沢に供給しており、基本的にはリスクアセット(株式など)への投資が促されやすい状況が継続すると見込まれています。この姿勢はさらに継続すると見込んでよいと思われます。

ただし、マネー供給がふんだんでも、リスクオフの地合いになってしまうと、リスクアセットから安全資産(高格付け国債や金や安全通貨等)へと、マネーの矛先がくるりと変わってしまいます。

会社売却したいセルサイドオーナーは、単なる株式投資(上場会社へのマイノリティ投資)よりも高めのリスクが含まれる、ビジネスへのマジョリティ投資(事業経営権の過半取得)という、単なる株式投資よりも1つ上のリスク投資において、資金を提供する人(バイサイド)から、多額のマネーを供給してもらう必要があるわけですので、なかなか大変な説明・説得の作業となるわけです。

目安の1つになるのは、株価指数でしょう。これが底割れして、それが定着(ベアマーケット入り)するようですと、リスクの高い事業投資を控える姿勢が強まるはずです。「まずは自分の本業を守らなければ。M&Aで他人の事業を買収して育てるような資金的・時間的・人的余裕はない。」ということです。

このような異常時の株価は、一時的な下振れを示すだけの業種もありますし、本当に今後のキャッシュフローが長期低迷する実態を表す業種もあります。バリュエーションの巧拙でも、結果に大きな差が生じるタイミングです。

不況時だからこそのM&A会社売却の周到な準備

さて、まず、リスクマネーが枯渇しているならば、売り時としては最高な環境ではない(というよりも最悪)と考えておくべきです。

しかし、常にピンチはチャンスです。

こういうときこそ、逆転の発想が要求されます。

せっかくの不況という困難な状況を活用して、コスト削減や新事業の検討といった、平常時では従業員のモチベーションが上がりにくい施策を打っておくと、いざ、不況があっさりと回復して、いざリスクマネーがジャバジャバに戻ってきたときに、「より魅力的な売却対象」を用意できているはずで、不況前よりも数段高い評価を得ることも期待できます。

不況で、ゾンビ企業が淘汰され、同一業界のプレイヤーが減れば、競争面でプラス(残存者利得)ですし、余剰人員が成長産業にシフトすれば、短期間で新しい、効率的な需給バランスが構築されやすい状況になっているという見方もできます(収益性アップ)。事業面でも金融面でも新陳代謝が早まっていて、これは個別企業の事業環境としては、やり方1つで、プラスにもなるし、マイナスにもなるはずです。早めに守備固めができるならば、不況期に攻めておくことができる事業かもしれません。

もし近々売却しようと思っている会社に資金的余裕があるのであれば、同業等を安値で現金買収する、資金的余裕はなくともゼロ円買収(株式交換)しておくのも妙手になるかもしれません。

そのため、弊社としては、不況期には、一定の時間を区切って、M&A会社売却前の徹底的な準備をすることを強く推奨しています。

M&A会社売却では、外部第三者が慎重に検討した結果として具体的な金額として評価されねば意味がないので、 大事なのは、 今までのオーナー経営者の視点のみではなく、企業価値評価(バリュエーション)、DD(企業精査、デューディリジェンス)といった第三者による適正評価(フェアバリュー)というフィルターを通した視点から、売却対象事業に関係するあらゆる要素を徹底的に検証しなおし、この視点から見える加点要素は伸ばし、減点要素は減らすという地道な修正作業です。

例えば、好況時には従業員のモチベーションが上がりにくい、不況時じゃないとOne Teamで実行しきれないタイプの改善・成長施策をやっておくと望ましいわけです。例えば、こういう施策でしょう。

・後継経営者の選抜・育成・チーム化(シェアードリーダーシップ含む)
・新テクノロジーの導入
・新事業アイデアの実現準備
・不採算事業からの撤退
・経常的コストの徹底的な見直し
・その他M&A視点から欠陥・改善余地を治癒・改善

弊社はこれらを立案段階から全面サポートするサービス(企業価値向上コンサルティング)をリーズナブルな料金(柔軟設計)にてご提供しています。

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不況時にどうしても売りたいとき

ところで、例えば、「不況で業績も下がっているにも関わらず、事業会社で平常時のキャッシュフローを基準として適正価格で買収する意欲が残っているという、セルサイドにとって非常に都合のよいバイサイド企業」が見つかればよいのですが、そういう投資家が見つからない場合、発想を変えてみると、少し違った景色が見えてくる場合があります。

不況時こそ投資チャンス到来」と、リスクマネーを供給し始める投資主体(バイサイド)が存在します。一般に、事業会社は不況になると防御姿勢に傾きますが、「買収側の競争相手が減り、実績も実力未満。だからこそ、割安で投資できるチャンス」と考えるプレイヤーが存在するのです。

逆張り投資家オポチュニスティック系投資ファンドと呼ばれる投資家です。資金繰りや事業の再構築(本当のリストラクチャリング)などまで手掛けるハンズオンの再生ファンドもいれば、あくまでも金融技術面に徹してGood/Badに切り分けてGood部分で早期転売勝負する再生ファンド(俗にいうハゲタカファンド)もいます。

さて、何も準備しないでこれら再生ファンドに売却すると、足元を見られます。足元を見ても許されやすいタイミングだから登場し、枯渇した市場に流動性(リスクマネー)を提供してくれる稀有なプレイヤーがこの人たちですから、足元を見てくるのは当たり前です。

このときの問題は、どの業績水準を基準に足元を見られるかという業績基準と、最終的にどれくらいの金額を手にできれば満足できるかという満足基準の2つの基準です。

今まで、無駄20を抱えたまま、利益100を出していた。つまり本当の実力は120あった。これが不況のあおりで利益60まで下がってしまった。「60を業績基準として、EBITDA倍率3倍なら買う(つまり180)」といってくる投資家がみつかった。しかし、1年前の好況期に、20を整理してから売れば、120×7倍=840で売れたかもしれない事業だった。つまり、5分の1に評価が下がってしまった。180は840よりも大幅に小さな金額、でもオーナー社長を続ける不安よりは、と180で売るかどうか悩んでいる。

こうなってしまうとモッタイナイの極みです。しかも、このくらいのケースは散見されるケースでもあります。

不況時に慌てて売ってはいけないのは、こういうネガティブインパクトがあるからです。しかも、前回不況の経験のない新参者が多くを占める日本の中堅・中小M&A仲介では、厳しい不況時の対処が根本的に不可能なケースも増えるはずです(注:真のM&Aバンカーになるためには最低7年の経験の蓄積が必要というのが、グローバルスタンダード。)。

バイサイドとしては、180で買って、20をカットして80まで戻し、回復期・好況期まで1-2年待って、業績が120とか150まで戻った段階で、7倍で売ると、この投資家は、180の投資で1050を回収できるので、利益は実に870です。こういうおいしい投資案件がゴロゴロ出てくるのが不況期なので、あえてこのタイミングで積極的に投資する投資家も登場してくるのです。つまり「回復期・好況期までこの事業が利益を出し続ける底力があるかどうか」の目利きのみで、数十年の苦労を積み上げたセルサイドの実に5倍の儲けを、たったの1-2年でたたき出すことができるわけです。

これはさすがに儲けすぎ」と思うと思います。

まず、売る前に20は自力で整理(改善・欠陥の治癒)しておけば、売却額は240(=80×3倍)にアップします。また、情報開示能力もM&A業者間で月とスッポンなので、こういう不況のときこそ重要となる情報開示能力=「月」の業者を選び、丁寧に事業に眠る価値を説明することで、3倍ではなく、5倍で売れるかもしれません。そうすると、80×5=400となり、だいぶ適正水準に近づいてきます。

さらに、スキームの工夫もあるでしょう。つまり400で慌てて100%売るのではなく、まず70%売って、30%は1050のときに売れば、合計約600(=400×70%+1050×30%)まで伸びます。70%売っているので、引継ぎが完了すれば、この事業からは経営者として引退OKになるでしょう。

これなら、最高ではないとしても、①早く引退してリスクを遮断したい、と②できるだけ高い価格で売りたい、がほぼ両立できました。

しかし、400まで引き上げられるか、さらに売り方の工夫等で600まで引き上げられるか、つまり、840という適正価格に近付けられるか、さらに超えられるかは、誰に任せてもできるわけではありません。交渉相手としてもギリギリの選択でしょう。幅広い領域のファクトと整合的なロジックを駆使して、多くのプロとの利害関係を調整しなければなりません。真のM&Aバンカーの中からさらに選ぶ必要が生じます。

不況期にどうしても売りたい場合の留意点

準備に徹して、不況時をやり過ごすというのが「最も損をしない不況期の会社の売り方」ですが、「景気回復も何年先になるのかわからないし、今すぐに売らねばならない理由がある。それまで待てない。」という固有の事情を抱えているセルサイドオーナーもいるはずです。例えば、新事業の芽が出ていて、「今少しくらい安く売ってでも新事業に集中してそっちで3000とか5000を狙う方がよい」と考える連続起業家のセルサイドオーナーもいるでしょう。本来のフェアバリューを下回る数百程度(240=840-600)であれば、時間を無駄にしないための先行投資と考えればよいわけですので。

では、「多少無理をしてでも、不況時に売ってしまいたい」、というセルサイドオーナーは、どういうM&Aアドバイザーを選ぶべきかです。

この選択1つで、200弱にもなれば、600にもなるので大事な選択です。最後にご紹介します。

不況のあおりで急激に赤字となった会社を売りたい場合

残念ながら、本来の適正価格で会社売却することは困難でしょう。しかし、M&Aの技術的工夫をすることで、難局を乗り切ることができる可能性はあります。

バイサイドも多額のキャッシュでの支払いには顔をしかめるでしょうが、事業に底力がある、つまり、顧客、取引先、従業員、ノウハウ、技術等に一目置くものがある会社であれば、キャッシュ買収以外の方法であれば、関心を示すかもしれません。

大事なのは、バイサイド選びです。誰でも非キャッシュ買収できるわけではないのです。

つまり、将来的に上場なり、第三者への会社売却を予定しているバイサイド企業に、適正評価(フェアバリュー)にて株式交換すればよいのです。バイサイド企業の株主となって、バイサイド企業が売却されるタイミング、つまり不況から完全に回復した時期、業績も環境も回復した時期に、正当な評価で売却できることになります。

不況時に頼りになるM&Aアドバイザーの選び方

まず形式的なポイントです。そもそも、2008年のリーマンショック前からM&A助言事業に従事していた経験は必須でしょう。事業承継難ブームに乗って、安定景気時代であるここ数年内にM&A仲介事業に参入してきた人が占める割合が急上昇しています。これは、難局を乗り越えた経験に乏しい人が多いことを意味します。M&Aアドバイザーを選ぶ際、会社もさることながら、「担当者が最低限の経験を持っているか」も必ずチェックしましょう。初回面談時だけ経験者が登場し、業者切替えが難しい契約を結んだ後で、すぐに初心者に担当替えになるリスクは絶対に犯すべきではありません。

次は質的なポイントです。静的(スタティック)動的(ダイナミック)という時間的変化への対応法の種類がありますが、本来、当然のことながら、M&Aは常に動的(ダイナミック)です。事業環境は変化するし、企業内リソースや社内の知の蓄積や組織も変化するからです。財務的成果は、複雑な要因で変化するので、動的(ダイナミック)で対処しないと、適切な売り方はできません。しかし、半ば強引に、静的(スタティック)な見方に切替えることで、より効率的に儲けられるという側面がM&A助言市場に存在します(簡単に言えば、セルサイドの無知(情報の不完全性、認知の不完全性)を利用し、繰り返し収入源となるバイサイドを優遇し、過大な超過利潤を得る動きが可能なケースが多い)。大変だけどセルサイドフレンドリーな動的(ダイナミック)か、簡単だけどバイサイドフレンドリーな静的(スタティック)か、M&Aアドバイザリー業者の事業目的(誰を顧客とし、どのような付加価値を提供するか、どのような財務的目標を持つか)次第で、仕事のやり方が180度異なるのがM&A助言です。

M&Aアドバイザーは、大きく2つに分類できます。

・会社の価値を静的(スタティック)に捉えるM&A助言会社
・会社の価値を動的(ダイナミック)に捉えるM&A助言会社

前者は、会社の価値を静的(スタティック)に捉え、大量・効率処理によって、手間をかけず、買ってくれそうな相手探し=マッチング可能性に集中し、目利きはバイサイドに任せ、1件1件の仕上がりに目をつぶり、受託件数を最大化することによる売上最大化を目指すタイプです。典型的には、両手M&A仲介会社やネットマッチングによるM&A仲介会社が挙げられます(もちろん例外もいます)。こちらのタイプは、通常、180を400に引き上げる能力がありません(そもそも、コストのかかる価値引き上げ力を持つ意欲すらなく、180でまとまるようにセルサイドを説得し、まとらなければ次の案件に移ります)。バイサイド本人に事業の目利きを丸投げしたほうが「効率的」で「結果として儲かる」からです。残念ながら、働き方改革や効率マッチング重視のM&A市場全体の趨勢の影響を受け、金融機関内のM&A部隊もこちらに偏っていく傾向にあります。「事業の表面しか見ないで買い手主導で売るタイプ」と言えるでしょう。

後者は、M&Aを動的(ダイナミック)に捉えるタイプのM&A助言会社です。投資銀行や独立系M&Aハウス等に代表される伝統的なM&A助言会社は動的(ダイナミック)に捉えます(例外もいます)。ターゲット会社(売り手企業)の事業・会計・法務・税務などをしっかり分析し、丁寧な情報開示の中で、バイサイドに最も望ましい評価をしてもらうために必要な情報を提供するサポートをしてくれます。不況時は、180に落ちないよう、せめて400、あわよくば600の評価をしてもらえるよう、必死に説明することが大事なわけですが、この時に頼りになるのがこのタイプ(動的評価をするM&Aバンカー)です。こちらは1件1件を大事に扱い、個別案件毎の売却額を最大限に高めることを通じて自分も儲けようと頑張るポジションにいます。つまりセルサイドオーナーと同じ舟に乗る絶対的味方になります。案件はそれぞれの受託基準で選ぶ傾向にありますが、少数精鋭のスリムな組織、ブティックタイプが多いと言えます。「事業の核、事業の周辺、組織や個人の心理に注目し、最高の成果を目指しながらセルサイド主導で売るタイプ」と言えるでしょう。

このように非常に対称的ですが、同じような報酬体系で事業運営している点が、非常にユニーク、ガラパゴス化しており、市場による歪みが大きいのが日本の中堅・中小M&Aマーケットです(ちなみに、少ないサービスしか受けていないセルサイドオーナーが、なぜか実質10%もの高率成功報酬を負担するのが前者の静的M&A助言会社(両手業者のケース)です。レーマン方式による片手成功報酬5%は、本来、高度かつ重厚なサービスを提供し、顧客と利害方向を一致させる動的M&A助言会社=投資銀行=片手業者が開発した報酬体系なのに、です。)

非常に困るのは、見極め方です。

それぞれのM&A助言会社、担当者がどっちタイプなのかの見極めは、簡単ではなく、そのくせ判断を誤った場合の被害は大きなものになります。

表面的には動的M&A助言をしているように見せつつ、実際には効率重視の静的M&A助言会社も多数いて、一度契約すると容易に抜け出せない仕組みになっているので本当に困ります。

表面上の違いだけで見極めることは難しいのですが、見極め方は、いろいろあります。

以下、一般的な見極め基準を挙げます(常に例外はありますので、実際に会って、色々と質問を投げかけてみてください。真のM&Aバンカーは、納得感がある回答を、即座に、わかりやすく返してくるはずです。)。
・成功報酬の受領方法(業務委託契約書に買い手からも受領するか否か)が、売り買い両方の両手か(前者)か、売り買い一方の片手か(後者)での見分け方が一番シンプルで、
・想定売却価格の根拠として「純資産」を使うなら確実に前者、EBITDAやフリーキャッシュフロー等のM&Aバリュエーション理論と整合的な財務指標に加え、業種・金融環境・ストラクチャー等、あらゆる要素を勘案して想定売却額を慎重に吟味するのが後者です(※ユニークな強みがある会社の場合、後者の方がはるかに高い想定売却額になりやすいと言えます)。
・想定売却スケジュールがやけに短い(3カ月から)のが前者で、後者は状況次第でしっかり待ちながらクライアントにとって最高の成果(あくまでもクライアントの希望に応じて、サービス内容をオーダーメイドで設計し、基本的に6か月から)を目指します。
・社名や屋号に「M&A」と入っいて、かつ、テレアポやDMの受領者(多くは普通の従業員)の不安や迷惑を考えず、なりふり構わずオーナー社長との接点を作ろうとするのは通常前者、何をやってる業者か名刺を見てもわかりにくい (M&Aにネガティブイメージが定着する日本で、社内外情報漏洩リスクに配慮、〇〇企業情報部とかコーポレート・アドバイザリー部とか即座にM&Aを連想しない社名など) は通常後者です。
・社長の経歴の中に、投資銀行や事業会社等でのM&Aバンカー経験があるかどうか(あるなら通常後者、それがなく富裕層・高齢者開拓営業系やネット系等の非関連業界から参入した社長なら、ほぼ100%前者)
・リクルート基準(人材採用基準)をみても、前者は未経験者を積極採用(高齢者と仲良くできれば誰でもできるコモディティビジネスなので)、後者は1人前になるまでに最低7年の修行を要求するので、数多くの高度な条件を要求(事業・金融・会計・税務・法務に関する総合プロフェッショナルビジネスなので)されます。
・広告や採用に対する姿勢で、件数重視(前者)か品質重視(後者)かも見極められるでしょう。高露出型・受託基準なしの案件集め姿勢は通常前者、案件受託時に一定の基準(規模、業界、売却目的等)があるなら通常後者です。

ご自身の会社の状況、外部環境の状況を見極めつつ、最適なM&A助言会社を選び、最適な会社売却を目指してください。

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ごニーズに真摯に向き合います。

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